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クリエイティブな社会貢献 第4回「ボランティア、でも、きちんと成果を出すことを約束します」

2009/08/28 インタビュー

“Volunteering Redefined”

直訳すれば、「ボランティアを再定義する」ということですが、これは、この連載を通じて紹介しているクリエイティブな社会貢献のしくみ「サービスグラント」を立ち上げた、アメリカのTaproot Foundationがかつて使っていたキャッチコピーです。

確かに、サービスグラントは、ボランティアといえばボランティアなのですが、従来のボランティアのイメージを塗り替えるようなところもあるのです。

というのも、サービスグラントを通して提供するものは、日ごろの仕事を通じて培ったスキルやノウハウであり、ある意味、やることの中身は仕事とそう違わないものだったりします。さらに、ボランティアらしいワイワイガヤガヤの雰囲気というよりは、WEBサイトやパンフレットなどの“成果物”を提供することを最終的な目標とするあたりも、とってもスマートでビジネスライクな雰囲気も漂ったりするわけです。

でも、定義上、そもそもボランティアとは、そこに強制力を働かせることもできず、拘束することもできず、すべてが参加する側の自由意思にゆだねられるというもののはず。それだけに、そこに「指示・命令」とはまったく違うプロセスが求められる、というのも、一面の事実なのです。

さらに、サービスグラントに集まる5~6人のメンバーは、基本的にみな初対面。 そのメンバーが、約半年間のプロジェクトの期間中、全員で集まるのはわずか数回程度。はたして、そんな方法で最終的にきちんとした成果物を提供することができるのだろうか?と疑問に思う向きもあるでしょう。

でも、実際には、最初に実験で行ったプロジェクト1件を除いて、以後の約20のプロジェクトですべて最終的な成果物を提供するところまで漕ぎ付けることができています。

では一体どうやって?
一つ一つは、素朴なものかもしれませんが、サービスグラントで取り入れている手法のいくつかを紹介してみようと思います。

 

(1)目標設定の明確化

サービスグラントでは、支援を受けるNPOも、そこに参加するボランティアも、最初の時点でどんな目標を目指すのかを明確に了解してもらっています。 ごく当たり前のようですが、これがかなり重要な第一ポイント。

プロジェクトを始める時点では、もう「何をやるか」ということに関する迷いは一切ない状態で取り掛かるのです。 その事前準備として、サービスグラントの事務局では、NPOに対する審査を行っています。その審査の過程で、NPOが明確な目的意識を持っているかどうかを十分にチェックしていきます。どんなにいいWEBサイトを作ってあげたとしても、それを活用するのはNPOの側。そこにWEBを活用するための戦略的な思考があるかどうかを見極めたうえでプロジェクトをスタートさせていくわけです。

NPO側がしっかりした意識を持っているかどうかは、そこに参加するボランティアにもそのまま伝わり、参加するモチベーションに直結しますから、ここは気を抜けないところ、なのです。

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(2)3つのフェーズ

いざプロジェクトが始まってからは、そのプロジェクトを大きく3つのフェーズに分けて進めています。

3つのフェーズは、それぞれマーケティングフェーズ、プランニングフェーズ、制作フェーズと呼んでいるのですが、その中でも、サービスグラントの特徴は、前段のマーケティングフェーズにかなりの時間を割いている点です。

というのも、参加するメンバーはみなWEBやグラフィック、あるいはマネジメントやマーケティングに関するプロかもしれませんが、NPOのことについてはまったく初めてという人も少なくありません。
一方、NPO側も、広報やマーケティングについて専門知識を持っている人は極めて少ないという状況。

そこで、参加するメンバーの側はNPOについての正しい理解を、NPOの側はマーケティングに関する基本的な思考法を、お互いに共有するためのプロセスが必要なのです。この作業があることで、考え方の基盤ができ、後半の制作がぐっとスムーズに進行し、成果物を確実に提供できることにつながっています。

 

(3)後戻り禁止

フェーズ分けをしているということは、一つのフェーズが完了したら次のフェーズに移行できるということであり、同時に、次のフェーズが開始したら、前のフェーズに後戻りはできないということでもあります。

例えば、マーケティングフェーズでは、成果物のターゲットとコンセプトを提案するのですが、このターゲットとコンセプトについて合意をした内容については、後のフェーズに入ってから変更することは原則としてできないというルールにしています。

例えば、あるNPOが、WEBサイトのターゲットを、学校の先生と子どもたちと定義して合意してマーケティングフェーズを完了したあと、制作の段階になって、やはり企業や行政の人たちもターゲットにしたいと言ってきても、先の合意内容をひっくり返すことはできない、という約束をしているのです。ターゲットやコンセプトが途中で変わったら、制作が振り出しに戻ってしまいますものね。

こうした形で、プロジェクトにいい意味でのメリハリや緊張感を持たせることも、気持ちよく参加できるための大事なポイントです。

 

(4)週5時間ルール

参加するボランティアのみなさんには、サービスグラントの時間は“週5時間”という目安をお伝えしています。
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これは、週5時間どこかに集まって何かをしなければいけない、ということではなく、週5時間程度を目安に、職場でも、自宅でも、サービスグラントのプロジェクトに時間を割くよう心がけてもらうための目安という程度のものです。

でも、こうした目安を提示することで、現実的に仕事と両立して参加できるイメージも持てると思いますし、また、逆にいえば、週5時間以上は頑張りすぎない、ということも伝えています。

サービスグラントでは、プロジェクトが始まってから成果物を納品するまでに約半年間という時間がかかります。つまり、一時的にがむしゃらに頑張るというスタイルではなく、持続的・継続的にプロジェクトに関わっていく関わり方が理想。 そのためにも、ほどよいペースでの参加をオススメしているわけです。

 

(5)フィードバックや素材提供の回数制限

ときに、クライアントからサミダレ式に降ってくるフィードバックや注文に悩まされる制作現場もあるかもしれません。 サービスグラントでは、NPOからの原稿素材の提供や提案に対するフィードバックについては、回数を制限し、期限を区切って進行するというスタイルをとることにしました。

そこには、かつて、実際には、NPOから原稿ができるたびにその都度バラバラとデータが送られてきたり、一方で肝心の原稿や写真はいつまでたっても揃わないといった状況が発生したりして、制作にかかわった人たちへの負担が大きかったという反省があるのです。

特に、参加するメンバーがみな別々の場所で働いており、メールベースのコミュニケーションが大半であるという活動だけに、参加する人の負荷をいかに軽減するか、ということのために、節度ある運営という答えに至ったのです。

このように、無駄をなくし、リスクを抑え、過度な負荷を発生させないようにすることで、ボランティアでありながらも継続的に気持ちよく参加でき、最後にきちんと成果を出せるようにする、というのがサービスグラント全般にわたっての考え方です。

でもこうしたやり方、相手がNPOという点は違いこそしますが、本業の仕事の進め方にも、参考になる部分が、あるかもしれませんね。

 
■サービスグラント
http://svgt.jp/

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嵯峨 生馬(さが・いくま)

NPO法人サービスグラント代表


東京大学教養学部卒。日本総合研究所の研究員として、ICカード、決済、ポイントプログラム、地域通貨、NPOなどに関連する調査研究業務に従事。
2001年、渋谷を拠点とする地域通貨「アースデイマネー」を共同で設立。
2003年よりアースデイマネー代表に就任。
2004年、出張で訪問したサンフランシスコでサービスグラントを知り、その年の暮れに日本で「サービスグラント」を立ち上げ。
以来、進行中も含めて22のNPO団体に対してホームページやパンフレット等のサービスグラントを提供。

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