2010年に公開されたドリームワークス作品「ヒックとドラゴン」。南部雅一は声優初挑戦にして主人公の仲間のひとりタフ役に抜擢された。
試写会で初めて完成した作品を見たときは感激で涙が出そうだった。
「家族は劇場まで映画を見に行ってくれたんです。タフは僕をそのままアニメ化したようなキャラクターで、声も合っていてすごくよかったって言ってくれました」
南部は感受性のかたまりのような人だ。
子供の頃からアニメーションやドラマを見て、泣き笑い、そして救われてきた。いつの日か、自分も感動を与える側になりたいと思った。いまようやくその1歩を踏み出したところだ。南部は作品の持つ本当の力を知っている。演技者として大切なものをつかもうと懸命に進んでいる。
あふれる感性と確かな技術を備えた演技者としての大きな可能性を秘めた人である。

あわせて読みたい

 

■「ガンダムSEED」に救われた

声優を目指すきっかけは、中学2年生の夏休みに「機動戦士ガンダムSEED」(02ほか)の特番を見たことでした。ちょうど僕は学校でいじめにあってふさぎ込んでいた時期で、「ガンダムSEED」の主人公の葛藤や悲しみが、ストレートに心に伝わってきてすごく感動したんです。それで僕も、こんな人を感動させられるような仕事をしたいと思うようになりました。
僕は、ひいおばあちゃんとおばあちゃん、両親に姉と弟と妹といった大家族で育ちました。物心ついた頃からテレビっ子で、「クレヨンしんちゃん」や「ポケットモンスター」といった作品は、夕食を食べながら家族みんなで見ていました。特に「クレヨンしんちゃん」が大好きで、子供の真っすぐな感情がそのまま出ていて、同じ子供としてとても素直な気持ちで見ることができた作品でした。しんちゃんの物まねもよくやっていました。あとドラマも好きで、ビデオに録画しては何回も見ていました。
中学生になってからは学級委員をすすんでやったり、目立ちたがりというよりは、しっかり者に見られたかったんだと思います。人と付き合うのが苦手だったから、積極的に友だちに話しかけたり、人の輪に加わろうと努力したんですが、やっぱりうまく立ち回れてなかったようで、陰口をたたかれて傷ついて。そんな僕を救ってくれたのが「ガンダムSEED」だったんです。
高校では中学校時代からやっていたテニス部に入部したんですが、そこでもあまり友だちとうまくいかなくて続けられなくなり、次に入ったのが音楽部でした。それで文化祭や先輩の壮行会などで舞台に立ち、合唱や出し物をやったり、得意なお笑い芸人さんの物まねを披露したりして、けっこうウケたんです。それで舞台に立つ喜びを知りました。ようやく自分の居場所ができたような気がして、とてもうれしかったです。

 

■ いかに体で反応できるか

高校を卒業するときには本格的に声優の道を目指そうと決めていました。それで日本工学院八王子専門学校クリエイターズカレッジ声優・俳優科に進みました。八王子校の体験入学に参加したときに、体験実習でおばあさんの役をやらせていただき、講師の先生からほめていただいたんです。そんなこともあって、雰囲気もよくて落ち着いて勉強ができそうだし、ここならやっていけそうな気がして、第一印象で八王子校への進学を決めました。
学校生活は比較的充実していたと思います。与えられた課題には真剣に取り組んだつもりですし、何かをやるとなったときにはいつも手を挙げて率先して参加していました。もともとは声優志望だったんですが、授業を受けているうちに、演技をきちんと学ぶことと基礎体力をつける大切さに気づき、最終的に俳優コースを選択しました。
相手のせりふに、頭でなくいかに体で反応できるか・・・・・・演技って本当に奥が深いですよね。1年生のときに「ガンバの冒険」という舞台でガクシャ役をやらせていただいたときにも、演じるための体づくりの大切さを学びました。「ロミオとジュリエット」のけいこでは、バルコニーに立つジュリエットの愛の告白を物陰から聞いた僕のロミオの演技に対して、「もっとハッピー! ハッピーに! 全然喜びが伝わってこないよ」と講師の先生に言われました。単に大げさに表現すればいいってものでもないし、本当に自分の心で感じて、それを体で表現することの難しさに直面しました。どうすればできるんだろうってずっと試行錯誤しながら、そのためにいまもいろんな練習をやっているんですけど、まだまだつかみきれなくて、すごく大変です。だけど、そういうことを考えながら生きるって、退屈しないですよね。

イメージ

「ヒックとドラゴン」
©2010 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.
TM &©2010 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.

 

■ あきらめない人にしか道は開けない

現在は劇団若草の本科生2年目です。俳優と声優の両方で広く活躍できる可能性があると考え、劇団若草への入団を志望しました。この2年のあいだに、ちょっとした役で舞台に出させていただいたり、エキストラとして出演させていただいたりしながら、演じるということだけでなく、まず人としてきちんとあることの大切さを痛感しています。時間を守る、忘れ物はしない、そんな当たり前の礼儀作法から、みなさんと共同作業でものをつくり上げていく上での臨機応変な立ち居振る舞いや気配りなど、毎日すべてが訓練です。タップダンスもジャズダンスも学生時代に授業でやってある程度基礎を身につけていたつもりだったんですが、やっぱり甘えていたと思います。ダンスの振りひとつにしても、いくら踊れても表現になっていないとダメだし、自分がどう見られているのかを常に意識してないといけない。改めていま基礎訓練を必死でやっているところです。
「ヒックとドラゴン」のタフ役の最終オーディションを2009年末に受け、2010年の年明けに合格の知らせを受けました。でもそのときには映画だって聞かされてなくて、海外のテレビアニメ番組か何かだと思っていたんです。それがまさかあのドリームワークスの作品だったなんて。自分の声がキャラクターにのってスクリーンから流れたときは本当に「スゲーェ!」って思いましたね。現場ではすべてが初めてで緊張の連続でしたが、共演者の方も僕がリラックスできるよう気を配ってくださり、すごく楽しい現場でした。「ヒックとドラゴン」をやらせていただいたことで、やっと演技者としてスタート地点に立てたような気がしています。
この道を目指すと決めたときから、「僕は俳優や声優の世界でやっていくんだ」と周りの人に宣言してきたし、かなり自分を追い込んで、自ら逃げ道をつぶしてきたところがあります。そんな僕に、友だちや先輩は「大変な世界なんだぞ。やってなんていけないぞ」って声をかけてくれました。そうやって心配してくれた人たちに、僕の活躍している姿を絶対に見せたいと思いました。僕はたたかれると沈んじゃうほうなので、劇団に入ってからも怒られてばかりで、正直辛いときもたくさんあったんです。だけどその目標があったから、辞めてたまるもんかって踏ん張ってここまでくることができた。学生時代に先生にも言われました。「あきらめない人にしか道は開けない。続けていればいつかチャンスはくる」って。
この世界に入るきっかけをくれた「ガンダム」の仕事にいつかかかわることができたらうれしいですね。いまはどんな小さな仕事も本当にありがたくやらせていただいています。すべてが演技の訓練につながっていると信じているし、いじめられた体験や辛かった経験も、それらすべてがあってこそいまの自分があるんだって思えるようになったんです。

nanbu02

「ヒックとドラゴン」DVD&Blu-ray リリース中
©2010 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.
TM &©2010 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
・ヒックとドラゴン ボーン・クラッシャーの伝説エディション 4,179円(税込)
・ヒックとドラゴン ブルーレイ&DVD セット 4,935円 (税込)
発売・販売元:パラマウント ジャパン

この記事に関するお問合せは、こちらまで
pec_info@hq.cri.co.jp

こちらもおすすめ