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『Love Letter』や『リリイ・シュシュのすべて』で日本映画に衝撃を与えた岩井俊二監督。今回も自らが執筆した小説を原作に脚本・監督・撮影・編集・音楽・プロデュースまでを手掛けた全編英語の映画『ヴァンパイア』が2012年9月15日(土)より公開されます。本作の見どころや岩井監督のこれまでの生い立ち、またクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

 

■ 自分を犠牲にしてまで人間にとっての生きがいって何だろう

子供の頃は絵を描くのは好きだったけど、そんなにうまい方ではなかったですね。外で虫を捕まえたり、家の中で子供向けの百科事典を見ているのが何よりも楽しかったです。なかでも生物と歴史と文学に興味があって、どちらかと言えば変わった子だったと思います。

子供の頃は長い文章を読むのがしんどかったので読書はそんなに好きなほうではなかったんですよ。だから叔父が持っていたいろんな文庫の目録みたいな小冊子を片っ端から読んでいました。一冊になった作品を読んでもいないのに、それぞれの作品のストーリーを勝手に想像するのが楽しかったですね。

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ただ「何かを目指さなきゃいけない」という思いが常にあって、勉強をしたら次に進まないといけないことに対しては疑問を感じていました。

大きくなるにつれ、だんだんと体力がついてきて中学生くらいの頃から小説をガッツリ読むようになりましたね。

ファーストインパクトを受けた作品は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で、カムパネルラという少年や“さそりの火”の挿話など、ある種の自己犠牲などストーリーの残酷なところがしっかりと描かれていて、「自分を犠牲にしてまで人間にとっての生きがいって何だろう」と感銘を受けました。

そして1985年に公開されたアニメーション版の映画を劇場へ観に行ったのですが、周りにいた子供が騒いでいたので思わず「お願いだから静かにしてくれ!」とつい怒鳴ってしまいましたね(笑)。当時まだ自分も若かったということもあったのですが、本当にこの作品が好きで相当気持ちを入れて観にきていたんですよ。でも周りをよく見渡してみると子供の中にポツポツと自分と同じくらいの歳の大人や学生もいて、その人たちも自分と同じ(集中して観たいから静かにしてほしい)オーラを放っていました(笑)

高校生の時に読んだ太宰治の『人間失格』は、ひとことで言うと“衝撃”でしたね。自分は心底ダメだという己のダメさ加減が描かれているのを読んで、「世の中を生きていくには、そんなにちゃんとしてなくてもいいんだ」という衝撃を受けて、それから“怠ける”ということを覚えちゃいました。

それらの作品も大人になって改めて読んでみると受け取り方が大分変わってたりするんですよね。『人間失格』も今となっては『好色一代男』のような女遍歴の話しにしか読めないですし(笑)。ダメだダメだと言っていながらも、「これはラブストーリーなんじゃないか」と思いました。

 

■ 映画『ヴァンパイア』について

“プルート”(ケヴィン・ゼガ―ズ)はある場所で“ゼリーフィッシュ”(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)と名乗る女性と待ち合わせ、当てもなく車を走らせる。見知らぬ者同志、共に死のうとしているのだ。

「最後の一日を最高の日にしたい」というゼリーフィッシュに、プルートは穏やかに死ねるある特別な方法を試すことを提案する。血を抜くのだ。ゼリーフィッシュの意識は次第に遠のいてゆく。

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そんなある日、サイモンは標的として選んだ“ラピスラズリ”によって思いがけず集団自殺に巻き込まれる。辛くも生き残った“レディバード”(アデレイド・クレメンス)と迷いの森を脱出するが、その道中、自分がヴァンパイアであることを告白してしまう。

後日再会したレディバードはサイモンの望みを叶えようと、血の提供を申し出る。彼女はもう一度自殺したがっていたのだ。そして同じ頃、教え子のミナ(蒼井 優)も自殺を企て、サイモンにとって最も長い一日が始まる。

 

■ 作品というのは時と場所を選ぶもの

実は本作に一番の影響を与えた作品が『人間失格』なんです。すごく意識して自分なりの人間失格を描きたいと思いました。

なぜ血を求める衝動を持っているのかは自分自身でも分からなくて、でも自分で自分がわからないという側面は大なり小なり誰でもあって、それは誰しものポケットに入っている何らかの“メタファー”を暗示していると思うんですよ。それが主人公・サイモンの場合、“吸血衝動”というものに憑依させて描いています。

本作を書きはじめたのは12年ほど前で、幼少期から書き始めて思春期くらいまで書いていたのですが、これはとても日本で撮れる内容ではないということになり、筆が止まっていたんです。
そこから先がなかなか浮かばず、結果『リリイ・シュシュのすべて』の制作の方が先に進んでいきました。『ヴァンパイア』と『リリイ・シュシュのすべて』は構想が同じ時期ということもあって隣同士にあった作品なんです。

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それから5年後くらいに別の作品でサスペンスを書こうと思いました。連続殺人犯と自殺サイトに集まる女の子たちの接触を描いたら、被害者と加害者のかつてないおもしろい共犯関係みたいな展開が描けるんじゃないかと書き進めたのですが、ちょうどその頃、似たような事件が実際に起こってしまったので、「さすがにこれは続けられない」と思い、その脚本も宙に浮いちゃったんです。

でも時間が経って、ふとある時に「この2つの作品は繋がる!」と思ったんですね。そしたら後はもうあっという間にできあがったので、結果的には両方の作品が生きて、今となってはこの形になるためにそれぞれ止まっていたんだなと思えます。

作品というのは時と場所を選ぶもので、なかなかこちらの自由にはならないところがあって、「これはゆっくり溜めようかな」とか、「いま世に出すのはもったいないな」とか思っていたら、急に思わぬところで出さざるを得ない状況になったりして、こればっかりは自分では選びたくても選べないんですよね。 『リリイ・シュシュのすべて』は『ヴァンパイア』がなかったら生まれていなかったかもしれないし、サスペンスの脚本がなかったら『ヴァンパイア』は今の形ではなかったかもしれないです。

 

■ 日本の女優さんと“触れ幅”が全く違う

本作のキャスティングについては専門のキャスティングディレクターと相談して配役を決めました。 主人公であるサイモン役のケヴィンは、原作を読んで「この役をやりたい」と自らオーディションに臨んでくれました。 女優陣に関しては、向こうの女優さんって日本の女優さんと“触れ幅”が全然違うんですよ。例えば顔のつくりとか。ここまで違うと人間を通り越して別の生き物に感じてくるくらいです。もう人ではなく山羊くらいに(笑)。

イメージそういう意味で外国の女優さんは自分の“ゾーン”の遥か外側にいるため、そうなると作品を通して感情移入ができなくなってしまうなと思ったんです。そうのような曖昧な説明と自分の好きなタイプをキャスティングディレクターに伝えたら、自分のゾーン内の絶妙な役者さん達を選んでくれました。「何でわかったんだ!?」と驚いたら、「いや、とてもわかりやすく説明してくれたから」と言われ、「ああ、そうなんだ、その表現でよかったんだ」と納得しました。

最近、自分の好みだと思う役者さんが増えていて、傾向が変わったのかなと思います。僕の幅が広がったというわけではなく、やっと周りが僕に追いついてきたって感じですかね(笑)。

本作ではないのですが、未だ実現していない映画のプランが5年前にあって、当時「この子はいいかも」と思った子を主役から脇役まで全部リストにしたんです。月日が経って本作をキャスティングするときに紐解いてみたら、その時にはまだマイナーだった子たちのほとんどが芽が出て有名になっていたんですよ。
例えばマリア役のクリスティン・クルックは、当時、僕の中で2番目に気になる存在だった子で、1番気になっていたローズ・バーンは、今やすっかり売れっ子になっちゃいましたね。

 

■ 人間は顔にいろんなインフォメーションが入っている

昔トラ柄の猫を飼っていたんですが数年後に亡くなってしまって、しばらくして友人が同じトラ柄の猫を飼ってたんです。それを見たときに、その顔を全く識別できなかったんです。「オレはダメだなあ」って思いましたね。

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動物は人間ほど顔や姿が変わらないけれど、その区別ができないのは、もしかしたら自分がその動物ではないからであって、逆に同じ動物同士なら顔で識別できているのではと昔は思っていましたが、どうもそういったことではないと今は思っています。

人間ってやっぱり特殊な動物で、顔にいろんなインフォメーションが入っているんです。白人でも黒人でも黄色人でも人種は関係なく、不思議なことに同じような顔つきの人は同じような性格をしていたりするんですよ。

人間は一人ひとりがものすごく異なった顔をしているので、この役にはこういう顔がいいんだとか、逆にこういう顔の人なら役もこういう性格になっていくんだとか、もっと明確にあるべきだと思います。
これは今後もっと研究しないといけないと思う課題なんですが、その大切な情報を無視して誰にでも置き換えて無理矢理演技をさせても無理なんですよね。化学反応がおきて違和感が残ってしまうんですよね。

誰もがその役をやれるわけではなく、この役だったらこの人にしかできないし、この人を配役するんだったら役のキャラクター自体を変更する、その方が合理的なんです。 長年やっている経験から、顔をみたら大体その人の特性がわかるようになりました。

 

■ ひとりでじっくり作れなくなることがこわい

フィルムは色ひとつ直すにも大変で自分の思い通りに直っていかないんです。フィルムを回避しながらも何とかフィルムのように表現できないかなぁとずっと模索していた時に、ちょうど『スター・ウォーズ エピソード1』でソニーが開発した24pが使われるという情報を聞き、当時はまだベータ版しかなかったんですが、それをレンタルして撮影してみたのがきっかけでした。

横着といったら横着なのかもしれませんが、脚本から編集まで自分でちゃっちゃとやれる方がいいので、自分にとって自由に使えるツール探しの結果、24pに行き着いたんです。

イメージ本作ではLEDライトを多用しているんですが、毎回いろいろな工夫はしています。撮影の度に実験やトライアルをしています。努力しているというよりは楽しくてしょうがない世界なので、どうしてもそういった試行錯誤を重ねていってしまうんですよね。

ただひとつ言えるのが、自分の監督作品に関しては、脚本となる物語を作ることだけは本当にこだわっていますね。 ひとりでじっくり作れなくなることがこわいんです。それだけ集中力も必要だし大変な作業なんですが、脚本制作が億劫になったらもうやってられなくなくなるので、粘れるだけ粘りたいと思っています。

だから人とコラボレーションしたものについてはプロデュース側にまわって自分では一切撮りません。 古い映画を綺麗さっぱりリメイクするとかならまだいいんですが、横にいる誰かが書いた脚本や作品を持ってきて、“岩井俊二監督作品”とラベルを張られて世に出るということには抵抗があるんです。

 

■ 脚本ができた時点で8割は終わった感覚

どのように撮影するかは自分の中であまり重要視していなくて、どちらかと言えば「いかようにでもなるだろう」と思っています。実は演出家としてはゆるいんですよね。

監督だけをやっている人にとっては、現場はそこしかないので、そこにガッと集中することができると思うんですけど、自分の中では脚本ができた時点で8割は終わった感覚でいるので、現場に入った時には割ともう“何でもあり”のような感じなんですよ。

以前、北村龍平さんと組んで仕事をした時に、僕が脚本を書いて彼がそれを撮ったんですけど、現場へのこだわりが自分と全然違っていて。例えばアクションシーンなんか何回も何回も撮るんですよ。カメラアングルはこうで足をこう掃ってとか彼は綿密に計画を立てるわけですよ。

「ここまでこだわれるってすごいよな」と感心し、「脚本だけで終わった気になっちゃダメだし、自分ももっと現場でこだわるようにならなきゃ・・・がんばらなきゃな」と反省しました(笑)

●最後の一日にしたいことをおしえてください。
家で24時間丸ごと岩井俊二でしょうかね。『リリイ・シュシュのすべて 』だったり、『四月物語』だったり、自分の作品をゆっくり観かえしたいと思います。

 

■ いい役者さんを探してほしい

本作はキヤノンのデジタル一眼レフカメラで撮っているのですが、学生時代にも同じキヤノンの8mmカメラで映画を撮っていました。驚いたことにカメラの値段が一緒なんですよ。時が経って値段がそこまで下がってきたということに感無量でした。学生時代におこづかいをコツコツ貯めて買ったカメラと同じような値段のカメラでプロの映画が撮れる時代がきたっていうのは、すごい衝撃ですよね。

イメージ映画用の業務用カメラなんて買ったら何千万とかするんですよ。それがここまで手ごろな価格になったというのは正直羨ましいですね。 今はカメラの性能がいいので、アマチュアとプロと立場が逆転しちゃってプロの方のカメラのほうがスペックが低かったりするんです。だからアマチュアの映画の方がクオリティが高くて、極端な話、テレビドラマよりもよく見えちゃうなんてこともあります。

そんないいものが世に出てきて安く手に入れられるのだから、たくさん撮って欲しいですね。 そのためには、いい役者さんを探してほしいです。僕らの頃は同じ学生とか友達にお願いするしか方法がなかったけれど、今はFacebookとか便利なツールがあるので、そういうものを使って出演してくれる人を募集するのもいいと思います。

最近、学生時代に撮った作品を見ていたんですけど、ひとりだけ演技の上手い友人がいて、その作品だけは何とか見ていられたんです。だから結局は役者さんが決め手になるんです。例え話は酷くても役者がいいと見てられますからね、逆にどんなにいい話でも学生が棒読みでやっていたらどうしようもないものになるので、いい映画を撮るためにも、いい役者さんを見つけてください。

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岩井 俊二(いわい ・しゅんじ)

1963年1月24日、宮城県生まれ。
88年、ミュージックビデオおよびケーブルTV番組の監督としてスタート。
TVドラマ、ビデオクリップ、CMの監督・脚本を多数手がけ、のちに「岩井美学」として広く知られる独自の映像スタイルを確立する。


自作脚本による『Love Letter』(95)で劇場用長編監督デビュー。架空の街を舞台にした第2作『スワロウテイル』(96)は、Yen Town Bandによる主題歌ともども大ヒットし、映画と音楽のコラボレーションを見事に成功させた。瑞々しいスケッチのような『四月物語』(98)を経て、インターネット上で始めたインタラクティヴ小説を映画化した画期的な作品『リリイ・シュシュのすべて』(01)で国際的な賞賛を集める。庵野秀明監督『式日 SHIKI-JITSU』(00)では撮影と主演を務めた。


その後、『Jam Films』(02)の1篇『ARITA』、蒼井優と鈴木杏が親友同士の女子高生を溌剌と演じた『花とアリス』(04)、尊敬する巨匠についてのドキュメンタリー『市川崑物語』(06)などを監督。


最近は、『ニューヨーク、アイラブユー』(09)の挿話をオーランド・ブルームとクリスティーナ・リッチ主演で監督するとともに、2008年サンダンス映画祭の審査員を務めるなど国際的に活躍。プロデューサーとしても、劇映画『虹の女神』(06)、『ハルフウェイ』(09)、『バンデイジ』(10)、『FUKUSHIMA DAY』(12)や、ドキュメンタリー『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』(11)、『friends after 3.11』(12/監督も)など多彩な作品に意欲的に取り組んでいる。


また小説家でもあり、最新作は「番犬は庭を守る」(12/幻冬舎)。本作は『花とアリス』以来8年ぶりの長編劇映画作品となる


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