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湊かなえの同名小説の映画化。誰もが認める美人社員が惨殺された事件で、疑惑の人となった同僚の城野美姫(井上真央)を巡り、噂が噂を呼び、周囲が翻弄されていく様をスリリングに描きます。監督は「アヒルと鴨のコインロッカー」「ゴールデンスランバー」など複雑な物語を巧みに描く名手・中村義洋さん。映画独自の表現を盛り込み、重層的なサスペンスに仕上げた中村監督にお話を伺いました。

 

■ 伊丹十三監督の「マルサの女」がきっかけで映像制作の道へ

img02高校3年生の時に、文化祭で演劇をやりました。そして受験勉強に突入した頃、テレビで伊丹十三監督の「マルサの女」が放映されて。周りはすごい勢いで勉強している状況の中、VHSテープに録画した「マルサの女」を何度も繰り返し見ていました。受験勉強を始めた春頃は、志望が考古学系や歴史系でしたが、1年近く経って、いざ年明けに願書を出す頃には、芸術系の映像などを学べる志望校ばかりになっていましたね。

「マルサの女」を見たことで、文化祭の演劇を振り返っても「映画の方がおもしろかったかな。映画で表現したら、どうなっていたんだろう?」と考えるようになって。入学したらすぐ映画研究会に入って撮り始めました。

一番初めに撮ったのは“ヤクザが人を殺してバラバラに切断した死体を、どこに捨てればいいか分からずに困る”という話です。
当時の“コインロッカーに入れてはいけないもの”として、劇物などと併せて「死体」という表記があったことから発想しました。死体を捨てようと川に行ったら「ゴミを捨てないでください」って書いてあって、やめて戻ってくる、で、コインロッカーに入れようとしたら、その注意書きがあるから、またやめて戻ってくる…5分くらいの短編です(笑)

 

■ 小説と映画で違う“描き方”

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© 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 © 湊かなえ/集英社

本作の映画化の始まりは、プロデューサーに「後味の悪いラストの映画はどうですか?」と誘われて、湊かなえさんの原作を渡されたことでした。映画化を見据えて原作を読んで、驚愕のラストに「あぁ、なるほどなぁ」という想いで、「この感じが映画になったら」というワクワク感は、いつにも増してありましたね。

原作の映画化に関しては、小説家には小説家の土俵があって、映画屋には映画屋の土俵があって、描き方は絶対に違うと思っています。でも「結局、言いたいことはこうでしょう?」という、そこは絶対変えないので。その一番大切な部分を、はっきりと描くことができて、原作自体に共感した作品だからこそ、映画化のオファーを引き受けています。

この「白ゆき姫殺人事件」でも、原作では登場人物の職業が“週刊誌の記者”のところを“ワイドショーのディレクター”に設定を変えていたりとか、いろいろ構成を変えている部分もありますが、湊さんも「映画だとこうなるんですね、おもしろいですね」と受け入れてくれました。「アヒルと鴨のコインロッカー」や「ゴールデンスランバー」の原作者の伊坂幸太郎さんも同じように、映画化による違う描き方を楽しんでくれましたね。

 

■ 様々な人の証言にあわせて、表情を演じ分けた井上真央さん

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© 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 © 湊かなえ/集英社

殺人犯として疑惑を集める、被害者の同僚・城野美姫を井上真央さんが演じています。撮影に入る前に、演技について話したのは、最後の方のビジネスホテルでのシーンだけですね。そこのお芝居には僕のイメージがあったので、その時だけ「こういうふうな状態であって欲しい」という話をしましたが、他のシーンは、特に話をしなくても、様々な人の証言にあわせて、表情を演じ分ける圧巻の演技でした。

綾野剛さんについても、演技の話をあまりしていないのは同じですね。綾野さん演じる赤星雄治は、「噂」をもとに取材を進め、その結果を逐一twitterでつぶやき、ネットを炎上させてしまうワイドショーのディレクターなので、「どういう人が、こういうことをやらかしてしまうか」というイメージだけは共有して撮影に臨みました。

さらに、今回ワイドショーの中で使用される映像として、事件についてや、城野美姫についての証言シーンがあるのですが、その部分は、がっつりとセリフで固めてしまわないで、箇条書きで「嘘をついてもらいたい」というお願いとか、設定の情報だけ渡して、こちらから質問する、という形式を採りました。みなさん、その役をやった俳優さんたちは、ちゃんと予習して情報を入れてきてくれたので、それぞれの言葉でベラベラベラベラ嘘ついてくれましたよ(笑)

 

■ “夢を見ているような感覚”と“既視感”のさじ加減

img06白ゆき姫殺人事件」は、“要素の多い”映画です。いろいろな人が、事件についてや、疑惑を集めた城野美姫について様々な場所で喋っていく、というのがテーマで、通常の映画の倍以上(およそ280)にも及ぶシーンが、物語を紡ぐ上で必要になりました。

なので、それをまとめる“編集”には時間をかけていて、完成が見えてきたのも、編集の最中でしたね。だんだん物語の全体像が見えてきて、映像も凝縮されてきて、「これは作品としていけるな」という手ごたえが段階を追って掴めてきました。

今回の映像化にあたって一番苦労したのは、劇中のワイドショーとtwitterだと思います。「映画を観ている方に、作品の世界に入って欲しい」という想いがあって、映画を観ている時を「夢を見ているような感覚」と表現するなら、目を覚まされては困るというか、素に戻られては困るので。ワイドショーは限りなく既視感があるものにはしたかったのですが、やり過ぎると観ている方に我に返られるという心配があって。twitterも同様で、そのさじ加減を試行錯誤しましたね。

 

■ 自分がおもしろいと思えるものを、強く信じる

img05これから映画監督になりたい、という若いクリエイターに向けては、自分がおもしろいと思うものを撮って欲しいし、何がおもしろいか自信を持てるくらい、本を読んだり、映画を観たりして欲しいですね。自分のおもしろいと思ったものに自信が持てるように、どう否定されても「これはおもしろいんだ」っていうものを強く持っていれば、おもしろい作品ができると思います。

それは自分自身の若い頃を振り返っても、言えることだと思います。認められようとか、褒められようという気持ちで取り組んだ作品は、良くなかったので。それよりも、自分が衝動的に「おもしろい、いける!」と夢中で作ったものの方が、それを面白がった人が次の仕事に繋げてくれたりと、良い流れを生んでくれたように思いますね。


●作品情報

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© 2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 © 湊かなえ/集英社

「白ゆき姫殺人事件」
3月29日全国公開

原作:湊かなえ「白ゆき姫殺人事件」(集英社文庫刊)
監督:中村義洋
脚本:林 民夫
音楽:安川午朗
出演:井上真央、綾野 剛ほか
企画・配給:松竹

■オフィシャルサイト
http://www.shirayuki-movie.jp/

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中村 義洋(なかむら・よしひろ)

茨城県出身。大学在学中にぴあフィルムフェスティバル準グランプリを受賞。崔洋一監督、伊丹十三監督らの助監督を経て、「ローカルニュース」(99)で劇場映画デビュー。その後も「仄暗い水の底から」(01/中田秀夫監督)、「刑務所の中」(02/崔洋一監督)、「クイール」(03/崔洋一監督)などで脚本参加する一方、「アヒルと鴨のコインロッカー」(07)の大ヒットで一躍注目される。その後も、「チーム・バチスタの栄光」「ジャージの二人」(08)、「フィッシュストーリー」「ジェネラル・ルージュの凱旋」(09)、「ゴールデンスランバー」「ちょんまげぷりん」(10)、「映画 怪物くん」(11)、「ポテチ」(12)、「みなさん、さようなら」「奇跡のリンゴ」(13)などコンスタントに作品を発表し、その力強い演出と人間を見すえる眼差しは高く評価されている。


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