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映画「ナイトピープル」監督 門井 肇さん

直木賞作家・逢坂剛の傑作ミステリー短編「都会の野獣」を映像化した最新作「ナイトピープル」が、現在公開中。優れた演出力が国内外で高く評価される新鋭・門井肇監督に、本作の見どころや、映画監督になったきっかけ、クリエイターへのアドバイスなど、お話を伺いました。

 

■ 高校生のときの原体験「映画づくりは、人間の面白い部分が見える」。

茨城県で過ごした少年時代は、おとなしくて目立たない、地味な子どもでした。実家が米屋を営んでいたため、家業を継ぐことが頭の中にありましたが、常にそれとは違う何かしらの夢を探していたように思います。その中の一つとして映画が出てきた、という感じです。実は今、家業も継いでいるので、兼業映画監督なんです。茨城で米屋をやりつつ、映画も撮っている。そんな人間は、日本に僕一人かもしれません。

img01最初に映画監督という職業を意識したのは、高校2年のとき。文化祭の出し物として、クラスで映画を撮ったことがきっかけでした。ふだんは勉強ばかりしているような友だちが、はじめて自分の意見を主張したり、見たことのない一面を見せてくれたり。人間の面白い部分が見える。それが映画づくりの持つ魅力なんだと思いました。特別映画を観るのが好きな「映画フリーク」ではなかったんですが、映画を「つくる」という行為の面白さに惹かれ、これを何らかの形で続けていきたいと思いました。

大学は「映画部のあるところに行こう」と思って、東京の成城大学に進学し、映画研究部に入部。そのころは部が活発な時期で、たくさんの人が映画を撮っていました。ただの部活動なんですが、先輩の中村義洋さんや熊澤尚人さん、後輩の細川徹など、映画の世界で今でも活躍している人がたまたま同時期に在籍していたんです。僕も映画を観るためではなく、映画をつくるためにやってきたので、その環境は非常に良かったんです。とはいえプロを意識するわけでもなく、8mmで私小説的な映画をひたすら撮っていました。

 

■ 茨城と東京を往復する中で、プロへの道が見えてきた。

家業を継がなければいけなかったので、就職活動は全くしませんでした。けれど、このまま田舎に帰ったら後悔が残ると思い、親と交渉をして、東京でアルバイトをしながら自主制作で映画を撮り続ける時間を2年間もらいました。その2年間のあいだに、「これだけやってダメなら…」と思えるぐらい力を入れた作品をつくり、東京で小さな上映会を開くことができました。8mmで撮れる自分の限界を出し切ったこともあり、2年間が終わったあとは、田舎に戻り、家の仕事をはじめるんです。

ところが、その作品を水戸の短編映像祭に出品したところ、なんとグランプリをもらってしまい、もう一度東京に出てくることになりました(笑)。審査員だった武藤起一さんが東京でワークショップをはじめたばかりで、16mmがやりたかったこともあり、参加することにしたんです。でも、制作費は自己資金だったため、次第にお金がなくなってしまって、また東京に住めなくなりました。それでまた田舎に引っ込んで…家の仕事をしながら借金を返し続ける。大学を卒業してからの数年間は、茨城と東京を行ったり来たりの繰り返しでした。

転機は、あるプロデューサーとの出会いでした。ワークショップでの作品を観たプロデューサー志望の人に、一緒に劇映画を撮ろうと誘われたんです。その人が、今作までずっと一緒にやっている小池プロデューサーです。はじめての劇映画「棚の隅」は、素人同然の僕たち二人が、熱い想いだけで実現した企画。公開まで足掛け5年もかかってしまいましたが、下北沢のちゃんとした映画館で1ヶ月ロードショーができ、モントリオール世界映画祭にも招待されて話題になりました。この作品がきっかけとなり、1本撮り終わって「じゃあ、もう1本やろうか」の繰り返しが、今作「ナイトピープル」まで続いてます。

 

■「ナイトピープル」あらすじ

©「ナイトピープル」製作委員会

街の片隅で営まれるワインバー“Night People”にひとりの女が現れる。知的さと美貌を兼ね備えた彼女の名前は杉野萌子(佐藤江梨子)。店のマスター・木村信治(北村一輝)は、過去に愛した人に似た萌子を雇うことにする。やがて常連客に親しまれるようになった萌子に、信治は徐々に惹かれていく。

ある日、萌子につきまとう刑事を名乗る男・曾根(杉本哲太)が店にやってくる。曾根は不気味な笑みを浮かべながら信治に告げる。3年前、萌子は大石という男と共謀し、大物国会議員から2億円の金を強奪した前科者であると。

大石は行方不明で、奪った金はいまだに発見されていない。萌子はその2億円を隠し持っているに違いない…。困惑した信治だったが、「金の在り処は知らない。罪は償ったのに曾根にひどい目に合わされている」と嘆く萌子の言葉を信じ、曾根の暴挙から萌子を守ろうとする。

そんな信治に、古いつきあいの花宮慧子(若村麻由美)はある写真を突きつける。そこには、萌子と曾根が密談している姿が写っていた…。

 

■ 本当は誰が悪い人かわからない。そのやりとりを楽しんでもらえれば。

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©「ナイトピープル」製作委員会

今作はエンターテイメントに振り切った作品なので、気楽に観てもらえればという気持ちで作りました。見どころは、市街地での銃撃戦と、登場人物の騙し合いや駆け引きなどの心理戦。誰が本当に悪い人かわからない。そんなやりとりを楽しんでいただければと思います。

心理面での演出は、僕も役者さんも非常に気をつけた点です。サスペンスは、観客にヒントをどこまで見せるかという「さじ加減」の難しさがあります。見せすぎると結末がわかってしまいますが、見せ足りないと突拍子もない展開になってしまう。その繊細な描写を表情の中にどのぐらい入れるか、役者さんと何度もやりとりを重ねながら決めていきました。

物語の後半には、原作にないアクションシーンをあえて入れています。葛西というやくざのキャラクターを加えたのも、銃撃戦の中心となる人物を作りたかったからです。信治や萌子が自ら銃撃戦を仕掛ける設定にしてしまうと、原作とは違うキャラクターになってしまう。なので、葛西という本筋とは違う「アクション担当」の物語を作り、2つの話をリンクさせる展開が一番しっくりくると考えました。

 

■ 悪い人でも、憎めない人に描きたかった。

ラストに向けての展開も、原作から変えています。原作のままだと、信治が悪いだけの人物になってしまうので、信治と萌子が惹かれあうシーンを足していき、ラストも明るい方向に向かっていく描き方をしました。アクション映画であっても、僕の基本路線は人間ドラマ。登場人物はみんな悪い人ですが、同時に憎めない人であってほしい。そんな想いのもと、人物の背景や心情を丁寧に描いていきました。

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©「ナイトピープル」製作委員会

実は劇中で、信治は一発も銃を撃っていないんです。撃とうとはするけれど、うまく撃てなかったり、ためらったり。そういう人間味も含めて、悪いだけの男に見せないために、あえて銃を撃たせなかったんです。

原作ものを映画化する上では、全体の雰囲気を踏襲することが大切だと思っています。今作であれば、どこか陰のある登場人物たちが騙し合いをする、暗い夜の雰囲気。その中であればいくら羽ばたいてもいい。むしろ、変えるのが当然と思っています。今作のアクション部分のように、大きく変えるところは自分たちで1から創造していく部門にし、本筋はできるだけ変えないようにする。そんなやり方で、原作に負けないよう戦っています。

 

■ トラブルを逆手に取って、より印象的に仕上がったワンシーン。

どのシーンにも思い入れはありますが、できあがったものを見て上手くいったと思ったのは、ペンションで信治と萌子が隣同士に座り、互いに過去を打ち明けるシーンです。萌子が信治への思いを考え直すこのシーン、実はもともと、ペンションの外で撮影する予定だったんです。外で一人佇んでいる萌子のところに真治がやってくる、というシナリオでした。ところが大雪が降ってしまい、外で佇むシチューエーションが成立しなくなってしまいました。

© 「ナイトピープル」製作委員会

急遽カメラマンのアイデアでペンションのロビーに撮影場所を変更したところ、窓から差し込む光の具合で異質な空間ができあがり、心情描写に合った心温まる絵を撮ることができました。苦肉の策でしたが、結果的に僕の中でとてもお気に入りのシーンになり、編集で短くカットされたものを、「もっと使え」と言って、結局全部使ってしまいました(笑)。

このように、撮影時に予定を変更せざるをえないことはよくあります。後半のシーンでは、ペンション全体を覆う雪が印象的ですが、シナリオの段階では全く予定しておらず、雪が降ってしまったから、雪の中のシーンにするしかなかったんです。撮影にトラブルはつきものですが、それを逆手にとり、上手く活かすことを毎回考えています。

 

■ 人の意見をうまく取り入れるほうが、人に伝わりやすいものになる。

スタッフや役者さんに相談して、意見を取り入れながら作っていくのが僕のスタンスです。たとえば今作では、信治が曾根にポケットの中の薬を見せ、実は薬を飲ませていないと気づかせるシーン。この演出は北村さんのアイデアでした。また、曾根のトレードマークのマフラーは、杉本さんが衣装合わせのときにアイデアをくれたもの。プロフェッショナルと一緒にやるからには、彼らの力をもらいながら作っていくほうが、得だと思っているんです。

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© 「ナイトピープル」製作委員会

そう考えるようになったのは、自主映画から劇映画に転向したときでした。自主映画時代はずっと自分でシナリオを書いて、場合によっては自分でカメラも回していましたが、全部自分でやるスタイルから抜け出さないと、これ以上は伸びないと気づいたんです。自分一人で作ったものだから、「自分の思いを伝えること」を全面に出すんですけど、今になって作品を見返してみると、人に伝わる力がない。でも「こんなにわかりやすくつくっているのに、何でこんなに伝わらないんだろう」と思っていた。これは、どこかで乗り越えなければいけない壁だと思います。

映画監督を目指す若い人にアドバイスがあるとすれば、「一度、人の脚本で撮ってみろ」と言いたいです。人の脚本で撮ると、絶対に自分の思いどおりにいきません。けれどそのぶん、いろんな人に伝わりやすいものに仕上がるはずです。これをやれると、一皮むけると思いますね。

 

■ 映画監督になるために必要なのは「しつこさ」。

自主映画時代もそうでしたが、映画を撮りたいと自分の頭の中で考えているだけで、撮らない人がほとんどです。ノートにシナリオを書いている人は多くても、実際にフィルムに落として表に出す人は少ない。そこが大きな違いです。映画監督は、なりたくても全員がなれる職業ではありません。運もあるし、相性もある。けれど、映画を撮らないでいては、絶対に映画監督にはなれませんから。

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© 「ナイトピープル」製作委員会

実際に形にしてみると、人の意見を聞くことができる。だから、見えてくるものがあるんです。僕の場合は「なぜ伝わらないか」が見えてきました。自分の頭の中で考えていることは自分の文法に基づいていて、他の人は同じ文法でものを考えているわけではないんですよね。それは、やってみないとわからないことであり、やってみると痛いぐらいに思い知ることでもありました。

僕が映画監督になれた一番の理由は、しつこく撮り続けたことだと思います。ふつうの人だったら、もうあきらめているはずです。こんなにうまくいかないで、何回も田舎に帰っていたりしたら。それでもあきらめないで、しつこくやり続けていれば、後になって振り返ったとき「何本か撮っていた」ということになる。だから、映画監督に一番必要なのは「しつこさ」なんだと思います。


ナイトピープル 全国にて絶賛上映中!

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出演:佐藤江梨子/北村一輝/若村麻由美/三元雅芸/杉本哲太/阪田マサノブ/田中隆三/谷本 一/伊佐山ひろ子/伊藤俊彦/安部智凛/ガンビーノ小林
原作:逢坂 剛
監督:門井 肇
脚本:港 岳彦
プロデューサー:小池和洋/岩本光弘
音楽:風カヲル時
撮影:早坂 伸(JSC)配給:太秦
2012年/90分/カラー/ビスタ/HD■公式サイト
http://www.u-picc.com/nightpeople
©「ナイトピープル」製作委員会

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門井 肇(かどい・はじめ)

1973年茨城県出身。学生時代から映画づくりを始め、06年、直木賞作家・連城三紀彦の小説を映画化した『棚の隅』(主演:大杉漣)で映画監督としてデビュー。モントリオール世界映画祭に正式招待されて話題となる。07年に文豪・吉村昭の同名短編小説を原作にした『休暇』(主演:小林薫)を発表。第2作にして各方面から絶賛を浴び、08年の第33回トロント国際映画祭に招待出品、第5回ドバイ国際映画祭コンペティション部門審査員特別賞を受賞したほか、第30回ヨコハマ映画祭ベストテン10位に選出されるなど、優れた演出力が国内外で高く評価されている新鋭監督である。

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