2012/4/21(土)より公開された映画『センチメンタルヤスコ』の監督である堀江 慶さんに、これまでの生い立ちやクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

自分が一番やりたいことをしよう

母親がオペラ歌手だったこともあって、週末になるとオペラや演劇を観に行ったりしていました。でも、子供だからなのか“演じている”ことが大袈裟に感じてしまって、常に“リアル”なもののほうに興味をもっていました。
幼心なりに、きっと将来この世界に入るだろうとは思いながら、でも漠然と「親とは違うことをして違う道を開拓しよう」と思っていました。

リアルな題材こそ、もっとリアルな一般のお客さんに向けて発信するべきだと思っていて、中学生の頃にはもう「映画監督になろう」と決めていました。定年もなく幾つになっても続けられますしね。

イメージでも実際は自主映画を撮ることくらいしか思いつかなくて、高校にあがって興味が半分と現場を知るにはいいかもしれないと思って芸能事務所のオーディションに応募してみたんです。

結果、俳優としてデビューすることになり、いろいろ役をもらいました。スーパー戦隊シリーズ『百獣戦隊ガオレンジャー』のガオイエローを演じてたのですが、その時に「いい俳優さんは他にもたくさんいる。自分が一番やりたいことをしよう」と思ったんです。それが映画をゼロから作ることで、これを最後に俳優はやめました。

根本にあった“映画を撮りたい”という思いは変わらず、日本大学の芸術学部映画学科監督コースに進学しました。1年目から自主映画を精力的に撮っていましたね。中でも思い入れのある作品は、35ミリで卒業制作を兼ねた長編の『グローウィン グローウィン』。

学校史上初といわれたのですが、タイミングよく出会えた出資者の方からなんと600万円の借金をして撮りました。これがデビュー作となり、様々な賞をいただいたおかげで今につながっていると思います。もちろん出資金も無事に返せませした(笑)

もう一度演劇を追求したい!

一度は俳優業はやめたのですが、大学2年の時に劇団東京乾電池にたまたま声をかけてもらったんです。 それで以前の芸能事務所での経験も生かせるだろうと思ってもう一度演劇の世界に足を踏み入れてみたのですが・・・そこでボロカスに怒られまして。

あわせて読みたい

イメージきちんとした芝居ができないと演劇や映画は成立しないということがわかり、1年間研究生として修行をしました。 自主映画もとりつつ、週末はPVのアシスタントディレクターもこなし、大変でしたが学んだことはたくさんありました。

その後は映画の撮影に追われ、芝居からは遠ざかっていたのですが『ベロニカは死ぬことにした』を撮った後に、26歳頃ですかね。 市村正親さんなど大ベテランとお会いできて、やはり研究生として1年勉強したくらいじゃ見せられるレベルではなかったんです。そこで「もう一度演劇を追求したい!」と思い、自ら劇団『CORNFLAKES』を立ち上げました。

あわせて読みたい

映画『センチメンタルヤスコ』について

テーマは、「誰も信じない。誰も愛さない。でも本当はただ愛してほしかった」。実は、劇団CORNFLAKESの最初の作品がこの『センチメンタルヤスコ』だったんです。自分の会社として初めて企画する映画で、悩んだ結果、一番思い入れが強いこの作品を映画化しようと考えました。
舞台ではコメディ要素があったのですが、映画版は真摯なテーマにしたくて。キャストはみんな変更し、ストーリーもだいぶ変えました。

ヤスコ自身、過去にあったトラウマがきっかけなのか、孤独を埋めようともがきながら愛を求めていく。職業も年齢も全く違う7人の男たちは、それぞれの方法でヤスコを愛し、その愛が交錯した時、事件は起きる。

イメージ

「結局だれが愛されていたのか」救急治療室前で繰り広げられる白熱した演技のぶつかり合いは、舞台のような緊張感が漂っていると思います。

この映画で伝えたかったことは、人それぞれいろんな環境はあるけど自分以上に愛せるものをみつけてほしい。ということ。

また本編では収録されていないカットしてしまった刑事の台詞があって、「いま向き合わなかったら、それは出会わなかったことと同じことなのではないでしょうか。」 これは希薄になりがちな人間関係にきちんと向き合おうということを込めていて、今振り返ってみると切るにはもったいない深い台詞だったなと(笑)

TVとは違った映画にしか表現できないアプローチ

初めての映画は、祖父に連れられて観た黒澤明監督の『乱』でした。自分で見たいと思って観に行った映画は、『ロッキー4/炎の友情』。そして大人になった今でも発想が自由でいいなと思う作品は、押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。

他にもアトム・エゴヤン監督のカナダ映画『スウィート ヒアアフター』や、フランスの映画『緑の光線』は、演出が素晴らしくて好きです。そして繰り返し観てしまう作品は、『チャーリーとチョコレート工場』。ミュージカルの要素と心が温まるエンディングがたまりませんね。

イメージテレビと映画の違いをあげるならば、映画にはTVとは違った映画にしか表現できないアプローチ(表現方法)があるからです。見たいもの=過激にできるのも大きいですね。

誰かのために生きてこその人生

第三者に何を届けようとしているのか、最近は伝えたいビジョンが見えない人が多い気がします。人の心に届かないと意味がないと思うんです。だから、“届ける部分”を軽視しないでほしい。

自分も言われた仕事を淡々とこなしていた時期もあったけど、最近になってようやく気づきました。
いろんな環境や状況があるとは思うけど、どんな作業工程の中でも機械的に進めるだけではなく、常にシノギを削れる人であってほしいし、また、世界にアウトプットするうえで、監督業だけでなくプロデュース業も、企画の全てを見通せないと上には立てないと思います。

自己愛が強すぎる人は自分のことだけで完結しているのでビジョンも狭い。 自分以上に愛せる何かを見つけて欲しいですね。 誰かのために生きてこその人生だと思います。


イメージ

午前0時。 ガイシャの名前は黒澤東花。22歳。 キャバクラ嬢。 仕事名はハタ ヤスコ。
何者かによって紐状のもので首を絞められ窒息状態に。 現在は意識不明の重体で救急病院に収容中。 状況証拠より殺人未遂事件と断定。 現場に残されたガイシャの携帯電話から容疑者を特定された。

ベテラン刑事・山仲の呼び出しで、深夜の救急治療室に集められた7人の男たち。年齢も仕事も住むところも違う彼らの共通点はただ一つ、 ≪キャバクラ嬢・ハタ ヤスコ≫だった。

ヤスコが生死の境目で彷徨っている中、 救急病院の暗い待合室の中では、7人の男たちの口からヤスコの過去が語られる。 少しづつ食い違っている“それぞれのヤスコ像”・・・。
まるでパンドラの箱を開けるかのごとく、次々衝撃なる事実が明らかになる!!

4月21日(土)ユーロスペースほか全国順次公開!

原作・脚本・監督:堀江 慶
岡本あずさ 池田成志 滝藤賢一 和田正人 高木万平 我妻三輪子  /  山崎一

主題歌:「Only one」  May J.
企画・製作:吉田正大 / プロデューサー:平山英昭 中林千賀子 五十嵐理
製作:beachwalkers/ 制作プロダクション:CORNFLAKES
制作協力:ブースタープロジェクト
2012年/日本/87 分/カラー/ビスタサイズ/ステレオ
配給・宣伝:る・ひまわり
©2012beachwalkers