サイバーエージェントとモリサワが共同で開催する、デザイナー向けセミナー。 ブレないブランドを創り上げるために重視したデザインのポイントを、 サイバーエージェントのサービスブランディング事例を元に両社のデザイナーにお話ししていただきました。どれも濃い内容で会場も終始沸いていたので、ダイジェストでご紹介させていただきます。

デザインから変わる企業のブランドイメージ

 

前澤 拓馬氏 (株式会社サイバーエージェント / クリエイティブ統括室 クリエイティブディレクター)
前澤 拓馬氏 (株式会社サイバーエージェント / クリエイティブ統括室 クリエイティブディレクター)

 

まずデザインの話の前に語っていただいたのがサイバーエージェントの掲げる「Vision」のお話でした。

サイバーエージェントが掲げるVisionは「21世紀を代表する会社を創る」というもの。前澤氏が入社して初めてこの「Vision」を聞いた時は、正直なところあまりにも壮大な言葉にすぐにイメージが湧かなかったそうです。
確かに普通は会社の掲げるVisionというとサントリーさんが「水と生きる」というメッセージを掲げているように、もっと具体的な言葉を使うことが多い中、割と抽象的でかなり大きなVisionですね。

ただ前澤氏がしばらく仕事をしていく中で、子会社の社長や社内の勢いのある人たちがみんなこのVisionを真剣に口にしているのを目にしているうちに、一つの目標にみんなが向かっていることを感じて前澤氏の中でも実感が湧き始めたそうです。

そして2016年にサイバーエージェントのMission Statementの中に新しく「クリエイティブで勝負する。」という項目が追加され、これまで以上にクリエイティブの重要性を明確に打ち出した時から大きな変革が始まったそうで、社内のデザイナーにとっても、会社にとってもブランディングを行っていく上でかなりの追い風になったとのことでした。

当時のサイバーエージェントは画像のように様々なサービスを出していて、大衆向けで割と「なんでも屋」のようなイメージを持たれていたようです。デザイナーの組織自体も当時はバラバラでしたが、「デザイン戦略室」という横軸の組織が結成され、イメージを一新する動きというのが出てきたとのこと。

社内グッズひとつ作るのにも以前の会社ロゴのままだとデザインにも限界があったようですが、そういう空気を感じ取っていた社長の藤田さんから思い切ってロゴを変えようと話があったそうです。

会社のロゴから一新するという試みはかなり難易度が高く、サイバーエージェントの総合クリエイティブ・ディレクターに就任したNIGOさんとデザイン戦略室で協力し今の新しいロゴになったそうで、その中でもキャラクターをAmebaのロゴに入れたというのが衝撃だったのか社内に公開したときに「ざわっ」となったらしいです。(笑)

ただこれが功を奏してグッズの展開や広告での起用を重ねて、ブランディングがぐんぐん進んで行き、結果的に「サイバーエージェントリブランディングプロジェクト」としてグッドデザイン賞を受賞することが出来た、と前澤氏は語りました。

そしてロゴにも使われていますが、フォントもサイバーエージェント公式のものを用意し、会社のパンフレットなどの印刷物や、社内のインテリアデザインを統一していく動きが出てきたそうです。

フォントを統一するだけでもかなりビシッと決まるんですよ、と前澤氏はフォントの重要さを強調して語っていました。

ここまで語った前澤氏は結局ブランディングとは何か?という部分について、”まず最初に話したようにデザインの観点から内容を決めていくというのは前提として、デザインの変化によって働く人の意識が変わるということも非常に重要なことだと感じていて、働く人の意識が変われば作るものも洗練されていき、社会や人々が持つイメージの変化につながっていくと考えています。”とブランディングに対しての考え方をわかりやすくまとめてくれました。

サイバーエージェントという大きな組織において変革をもたらした前澤氏の貴重な体験談を聞くことができたとても有意義な講演となりました。

誰にも教えたくないオルタナティブガールズの制作秘話

 

左 山崎 一平氏 (株式会社QualiArts / 「オルタナティブガールズ」 クリエイティブディレクター・デザイナー) 右 庄司 拓弥氏 (株式会社QualiArts / 「オルタナティブガールズ」クリエイティブディレクター・アートディレクター)
左 山崎 一平氏 (株式会社QualiArts / 「オルタナティブガールズ」 クリエイティブディレクター・デザイナー)
右 庄司 拓弥氏 (株式会社QualiArts / 「オルタナティブガールズ」クリエイティブディレクター・アートディレクター)

 

 

《VRモード搭載》スマホ美少女バトルRPG「オルタナティブガールズ」 https://lp.alterna.amebagames.com/
《VRモード搭載》スマホ美少女バトルRPG「オルタナティブガールズ」
https://lp.alterna.amebagames.com/

 

”「オルタナティブガールズ」、略して「オルガル」はスマホゲームとしてはVR対応や18,000ポリゴンを使ったハイエンド3Dモデルの起用など技術的な面でかなりチャレンジをしてきているコンテンツです。今日は、主にその部分にブランディングの話を絡めて色々お話できればと思っております。”

そう話し始めたデザイナーの山崎氏はゲーム開発で大切なブランディングについてプロモーションの観点からお話ししてくれました。

プロモーションをする上で、ブランディングの構築に繋がる部分、コンテンツの厚みやデザインとしての魅力などをどうやってみせていくか、伝えるかという部分を重要視しているとのことです。

技術的な観点では、VRを導入することで目新しさや話題性を狙うだけではなくスマホでVRがここまでできるのか、という感動をユーザーに伝えるためにコンテンツとしても重厚なものに仕上げたそうです。

VRを導入するきっかけとしてはVRを楽しめるスマホゲームが今まであまりなかったということと、2016年がちょうどVR元年と言われていたので挑戦してみたかったとのこと。

ここまで前向きなお話でしたが、実は開発中はハプニングもあったようで…イラストレーターさんのアサインやイラストやデザインのばらつきをどうやって統一性をもたせたのかなど、その時の苦労をアートディレクターを務める庄司氏が語ってくれました。

”プロモーションにもかかわってくる、コンテンツのイメージカラーはとても重要で、斬新になるようにブルーとピンクに設定しましたが、イメージカラーを決めたあたりからグンと統一感も出たと感じました。。”と山崎氏は全体の統一感を出すことの重要性についてまとめていました。

最後に庄司氏が「オルタナティブガールズ」について長く愛され、多くの人々を魅了するコンテンツに育てていきたいと強く語っておりました。

オルタナティブガールズというハイエンドコンテンツ制作に関した裏話を余すところなく語っていただいた素晴らしい講演でした!

タイプフェイスから考えるブランディングデザイン

 

富田 哲良氏 (株式会社モリサワ / デザイン企画部 ディレクター)
富田 哲良氏 (株式会社モリサワ / デザイン企画部 ディレクター)

 

”まず書体というのは白黒の世界でして、芸能人さんが出てきたり、カラフルなレイアウトをしたりすることがない世界です。”と語り始める株式会社モリサワのディレクターを務める富田さん。

会場の雰囲気もガラッと変わり、知らない世界のデザイン制作の話が始まり興味津々のみなさん。

派手なことはせず、気づかないところからイメージが伝わるようにデザインをしていくフォントデザイン。先程サイバーエージェントの前澤氏が語っていた、ブランディングにおいてのフォントは重要という言葉がここでふとよみがえってきます。

まずフォントデザインを始めるときに一番最初に書く文字は永遠の「永」だそうです。永字八法といって書に必要な技法8種が全て含まれている「永」を基本として書体のあり方などを決めていくことがフォント制作のはじめの一歩だそうです。


そして驚くべきことに、こちらのスライドを見れば分かる通りモリサワさんでは手書きで全て制作をしているとのこと。

書体をデザインするデザイナー、業界ではタイプデザイナーと呼ばれているそうですが、彼らが一番最初にする仕事は書体のデッサンだそうです。

そしてそのあと語られた内容に会場一同「えぇ…。」と凍り付く!
このデッサンですが、モリサワの代表的な明朝体、ゴシック体の2つを何も見ずに描いて製品と同じクオリティを出せるようになってから、初めてフォント制作の仕事に取り掛かることができるようになるそうです。

なんとフォント制作、いわゆる実務に入れるのは早い人で2年くらい、長くて3年くらいかかるんだそうです…!

そして肝心のフォント制作では、ディレクター1名、デザイナー2名、エンジニア1名程度でチームを組み約2年から3年かけて1つの書体を完成させていくそうです。

普段無意識に目にしているフォントが実際に制作するとなるととても地道で大変なことだという事実に驚かされます。

ここからは、タイプフェイスから考えるブランディングデザインに関してのお話。

世界では特注で企業制定書体を作るというのは珍しくないそうですが、日本は漢字という文化がある関係で企業制定書体という考え方はなかなか浸透しづらいとのこと。確かに漢字を入れると1万文字くらいありますからコストも労力も桁違いになりますね。


そのような関係から京都らしさがテーマの某案件では、漢字から全て制作するのは難しく、モリサワの持つ既存フォントに合うひらがな、つまり「仮名書体」のみの制作をすることになったそうです。それだけでもデザインに対するイメージを大きく変えることができるとのこと。

仮名書体のみであれば210文字ほどで済むとのことで確かに経済的ですね。

ちなみに漢字を含めた1万文字程度の制作となると海外の超高級自動車と同じくらいのコストがかかるそうです…!

”超”という部分を強調していたので、数千万単位なのでしょうか…。

人によっては高いと感じる人もいるかもしれませんが、フォント選びはブランディングをする上で気付かないうちにとても重要な効果を発揮するそうで、先程のサイバーエージェントさんの例を見れば一目瞭然だと思います。

巨大組織のイメージを一新するほどの効果を考えるとそう高くないコストなのかもしれませんね。

フォントにはデザインの統一感、文字の性格など、無意識のうちに狙ったイメージを持たせることが可能だということがわかりました。

あまり知らない分野のデザインの話というだけあって、会場が終始圧倒されていたとても貴重な講演でした!

最後は交流会で盛り上がりました!

みなさんが登壇された後は、対談や質問タイム、そして待ちに待った交流会です!
お酒を飲みながらデザインについて深く語り合う。
デザインのディープな知識を身につけたいと思っているデザイナーには必見のセミナーですね。