配給の仕事を行っていく中で、製作者達の熱い想いに心動かされる瞬間が度々あります。映画製作を行っていく上での喜びや苦悩とは如何なるものなんでしょうか?

今回は『ドッグ・ソルジャー』『ディセント』で世界中の喝采を浴び、「バラエティ」紙により“注目すべき10人の監督”の1人に選ばれたニール・マーシャル監督が、最新作『ドゥームズデイ』に賭けた思いとその制作秘話を紹介していきたいと思います。

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■リアル・スタント満載のアクションへの想い

ニール・マーシャルは、“スプラット・パック”と呼ばれる、残酷で暴力的なホラー映画を作るニューウェイブの映画作家たちの代表的な一人と言われています。彼の他には、『ヒルズ・ハブ・アイズ』『ミラーズ』のアレクサンドル・アジャ、『ソウ』シリーズの2~4作目を手掛けたダーレン・リン・バウズマン、『ホステル』シリーズのイーライ・ロスなどが“スプラッド・パック”の代表的な映画作家として挙げられることが多いようです。ここ数年で日本でも大きな話題になった監督達ばかりですね。

好評を得た『ドッグ・ソルジャー』と『ディセント』に続き、上昇気流に乗る中で前二作より大幅に予算アップした新作『ドゥームズデイ』。本作は、悪夢のような近未来を舞台に、ノンストップ・アクションと大胆不敵なスリルを掛け合わせた映像がスクリーンに炸裂するスプラッシュ映画となりました。

この映画には、『ニューヨーク1997』『ウォリアーズ』『地球最後の男 オメガマン』『マッドマックス』など、1970年代から80年代初頭のジャンル映画の片鱗が垣間見られます。これらの作品、大好きな方も多いのではないでしょうか。

監督はジョン・カーペンター監督やジョージ・ミラー監督など、70年代の優れたジャンル映画の監督たちの映画を彷彿させる作品を作りたかったそうです。私も、主人公のシンクレアと対立する、ソルというモヒカン頭の登場人物のビジュアルを見た瞬間に「あ!『マッドマックス』だ!」と頭のなかで絶叫してしまいました!

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けれど、そういったオマージュが多数見られる一方で、作品全体は完全にマーシャル監督のオリジナルな世界観で貫かれています。

これまでの経歴の中でも最大の予算を与えられているにも関わらず、マーシャル監督は本作をCGの派手な映像効果に大部分を頼る現在流行りのアクション・スリラーにはしたくなかったそうです。自分が少年期に熱狂したような気骨のあるリアル・スタントが満載のアクション映画を作りたいと心に決めていたのです。

マーシャル監督はこう語っています。

「そう、リアルな世界で、危険なことに挑むリアルな人間たち!グリーンスクリーンもワイヤーも使わず、時速130キロで疾走する車の上に立ち、飛び乗り、しがみつき、互いに激突するクレイジーなスタントマンたちの映画だ!」

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幼少期から見ていた映画作品に対する熱いが込められた『ドゥームズデイ』。様々なシーンにちりばめられた過去の名作へのオマージュを見つけるのも、本作の楽しみ方の一つかもしれません。

『ドゥームズデイ』がマーシャル監督の前二作と違うのは、圧倒的なスケールの大きさと言えます。

前二作は限られた環境の中にいる小さな集団を描いていたため、一番大きな群衆シーンでもエキストラは20人くらいでした。しかし『ドゥームズデイ』では、感染ウイルスでパニックに陥るスコットランドを描くために、最大で1000人ものエキストラを集めました。映画冒頭のスコットランドの封鎖シーンや、暴徒と化した人々の集会シーンは、圧巻の一言に尽きます。

また、リアルな戦闘シーンや荒廃後の世界を描くため、ストリート、森、山、城、船の中といった広範囲なロケーションで撮影しなくてはなりませんでした。撮影は主に南アフリカで行われたそうです。

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製作班は、オープニングシーンの撮影でロシアの貨物船に乗り込み、逃亡シーンには蒸気機関車を借り、アクション・シーンには放置された食肉処理場を使用しました。作品中に出てくるグラスゴーのセント・アンドリュー病院は、実は特別に許可を取って使用したケープタウンの市庁舎だそうです。また、かつてネルソン・マンデラが釈放された時に演説したバルコニーも、スタッフたちの手で廃墟に変貌しています。何度もこのシーンを見ましたが、そんな風には全く見えません!

撮影班にとって最大の挑戦となったのが、息も尽かせぬカーチェイスです。南アフリカでの後半三週間は、この追跡シーンの撮影に費やされました。また、緊迫感溢れる映像を撮影するため、このシーンには10台分のカメラが使われました。「今まで10台のカメラを一度に見たことさえなかったよ(笑)。」と監督自身もその撮影規模に驚いていたようです。『ブリット』や『マッドマックス』がお好きな方には必見のシーンです。

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■脅威の特殊メイク

『ドゥームズデイ』のもう一つの魅力、それは何と言っても感染ウイルスに侵された身体のヴィジュアルと言えます。

マーシャル監督は『ディセント』の特殊メイクを担当し、不気味でネバネバした這い回る虫の創作で有名なデザイナー、ポール・ハイエットに再び依頼しました。ハイエットは『ドゥームズデイ』の撮影全体ですべての特殊メイクを担当しています。

マーシャル監督の指示は「可能な限り、不快にしてくれ」というものでした。もしその患者が人に向かって咳をしたら、相手の人間は死んでしまうような感じを出すために(!)、ハイエットは多くの病気の症状について研究したそうです。

作業は、目の表情を含め細心の注意を払って行なわれました。目の部分を下に引っ張ることで、まるで感染症が徐々にまぶたに侵食し、まぶたが喪失して、目の全体が透けているような効果を出しています。また、黄色味を出すためにコンタクトレンズも使用しています。

スクリーンで見ると、思わず感染者を助けてしまいたくなる程のリアリティです。絶対にこんな感染ウイルスにはかかりたくない!と心から思える恐ろしさが実にうまく表現されています。

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マーシャル監督の熱意により、『ドゥームズデイ』は想像を絶するビジョン、予想を裏切るストーリー、手に汗握るワイルドなアクション&サスペンスとなりました。私も今年一番と言えるほど興奮した作品になります。エキセントリックで唯一無二な“『ドゥームズデイ』ワールド”をぜひ劇場でお確かめください!

『ドゥームズデイ』
9月19日(土)より新宿ミラノ他にて全国ロードショー

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監督・脚本:ニール・マーシャル
1970年5月25日、英国ニューカッスル生まれ。
『ドッグ・ソルジャー』(02)で監督デビュー。この兵士と人狼の対決を描いたホラー・コメディは、英国全土で公開され批評・興行共に成功を収め、英米ではカルト作として人気を集めている。

監督第二作は、女性だけの探検隊が地下洞窟に閉じ込められるホラー・サスペンス『ディセント』(05)。06年にはライオンズゲートによりアメリカの2000を越える映画館で公開され、サタン賞最優秀ホラー映画賞、英インディペンデント映画賞の最優秀監督賞と最優秀編集賞、エンパイア賞最優秀ホラー映画賞など数多くの賞を受賞。その高評価を受け、「バラエティ」紙により“2007年に注目すべき10人の監督”の1人に選ばれた。『ドゥームズデイ』は三作目の監督&脚本作となる。

【主演】
ローナ・ミトラ、ボブ・ホスキンス、マルコム・マクダウェル、アレクサンダー・シディグ

【ストーリー】
2008年、人類に終わりの日が近づいていた。全人類を一掃する感染ウイルスが蔓延していたのだ。その本拠地となる街では数百万人が感染し、政府はウイルスを封じ込めるため巨大な壁をつくり、民衆を隔離する政策に出る。見捨てられた人々に待つものは“死”のみだった…。

時が経ち2035年。根絶したはずのウイルスが再び姿を現す。政府は緊急会議を開き、“隔離された街”の生存者が写っている衛星写真が発表される。それが意味するもの、それは抗ウイルス剤が存在することに他ならない。政府はスペシャリストチームを結成し、見捨てられた場所“ホットゾーン”へと送りこむことを決定する。リーダーに任命されたのはエデン・シンクレア(ローナ・ミトラ)。彼女は幼い頃、感染地域の隔離直前に軍用ヘリで救い出されはしたが、その地に母親を置き去りにしてしまった過去を持っていた。

失敗が決して許されないチームは、壁を越え荒れ果てた“ホットゾーン”へと踏み込んでいく。しかし間もなく出くわした生存者はそれが人類の本能であるかのように凶暴化し、街は暴力と欲望に支配されていた。果たしてシンクレアは抗ウイルス剤を見つけ、世界を救うことができるのか―。

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