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映画『ニーナ』 監督 エリザ・フクサスさん

第25回東京国際映画祭でコンペティションのワールド・プレミアに出品された映画『ニーナ』の映画監督 エリザ・フクサスさんと編集のナタリー・クリストィアーニさんに、これまでの生い立ちやクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

 

■ 子供の頃からアートは非常に大事なもの

エリザ: 「小さいころの夢は・・・肉屋さんになりたかったの。」
ナタリー:「そうなの!?知らなかった(笑)」
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エリザ: 「でもその夢は成長すると共になくなっていって(笑)父親が建築家ということもあり、子供の頃からアートは非常に大事なものと教えられてきました。そしてアートは他のどんなものよりも価値があり秘めた力を持っていると思います。
また自分自身でアイデアを持っている人は価値があり恵まれているわけだから、その力を発揮しなくてはならないという考え方で育てられてきました。映画以外にも様々なアートをたくさん見て育ったので、自分の中に蓄積されたものがたくさんあり、それが最終的には今の映画という形になって結びついていると思います。

イメージナタリー:とても好きだった叔母が編集の仕事をしていて、幼いころ編集室まで足を運んで優秀な叔母の仕事ぶりを実際に見て、「自分はこの仕事には就かないだろう」と思っていましたが、大学の頃にある映画を観て、映像の世界にすごく魅せられローマの映画学校に行って勉強するようになりました。

編集の仕事だけはしないだろうと思っていたのに、まさか自分も同じ仕事に就くとは夢にも思いませんでした。
これから先もエリザと一緒に仕事ができたらいいなと思います。

 

■ 映画を撮らなくてはいけない

エリザ:自分が何かを選ばなくてはならない場面では、自分が一番やりたくないものを選ぶようにしているんです。その中でも建築は一番やりたくなかったので、建築を学びました。

でも自分にとって脚本を書くということは、食事をしたり歩いたりすることと同じくらいに日常において大事なことで必要なことでした。また言葉というものは全く違う側面も持ち合わせていて、例えば自分の思うことを本にすると、その内容は読者自身のイメージで解釈されるので書いた人のイメージが必ずしも相手に伝わるわけではありません。

だから自分のイメージを第三者へ正確に伝えていくためには脚本を書くだけでなく映画を撮らなくてはいけないと思うようになりました。

 

■ 映画『ニーナ』について

イメージ本作のヒロイン・ニーナは夏休みで無人となったローマ郊外を舞台に、声楽を教えたり犬の世話のバイトをしたりして暮らす。元来ローマの街にスクーターはよく似合うが郊外を滑走し、その無人の光景はファンタジーの世界を思わせるほど新鮮でユニークである。
孤独な少女ニーナの見る世界。彼女の漠たる不安を象徴するかのような、広い空間をスタイリッシュに切り取る独特の映像感覚に注目です。

■ イタリアの今の社会問題を描写している

エリザ:本作のキービジュアルは折り紙のシーンです。折り紙そのものがこの映画の存在理由なので、他のシーンは折り紙のシーンを撮るための口実なのかもしれません。

この映画の出発点は“孤独”で、一人では何も決めることができないニーナの孤独な様子から始まっているのですが、それは自国であるイタリアの今の社会問題を描写しているんです。プレカリアートという言葉の通り、仕事をしたくても仕事が見つからなかったり仕事に就けなかったり、いま就いている仕事を辞めなければならなかったりといった問題がイタリアでは非常に大きな問題になっています。イメージ

プレカリアートの元の部分を考え追究してみると、原因は実存的な人生の問題から出発している気がするのです。特に私たちのような若い世代にはしっかりとした地盤がなく未来の展望がなく不安定だったりするので、個人の実存に関わってくるプレカリアートを表現しようと思い、この作品ができあがりました。

 

■ 無意識に取り込まれたものと意識的に取り込んだもの

エリザ:私は、見たものや出会うものの全てを作品に取り込む体質なんです。好きなものはもちろん嫌いなものでさえも取り込んでしまうので、これまで自分が見た本や映画、出会った人物などたくさんのものから影響を受けていて、そのすべてが無意識にも映画の中に取り込まれていると思います。

また意識して取り入れたものとしては、この映画の中で主人公の女の子がキッチンで佇んでいるシーンがあって、その頭上に鹿の頭が飾ってあるのですが、この描写はデイヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』がヒントになっているんです。イメージ

私自身デイヴィッド・リンチ監督の作品が好きで、ツイン・ピークスを見ているときにテーブルの上に鹿の頭が無造作に置いてあって、「何で鹿の頭がテーブルに置いてあるのだろう?」とずっと気になっていたんです。あるとき監督と仕事をしたことがある美術スタッフの方にそのことを聞いてみたら、「もともとは壁に掛ける予定だったんだけれど、掛けても掛けても落下するので、仕方なくテーブルの上に置くことにした」と言うんです。だから私の映画の中では、元の位置に戻した状態で鹿の頭を撮影しようと思ったんです。

 

■ 人を魅了しなくてはならない

エリザ:誰にとっても映画をつくるという仕事は難しいと思います。特に映画監督の場合、男性女性というのは関係なく時には自分の性別を忘れて一緒に仕事をする人も作品を観てくれる人も魅了しなくてはなりません。

自分がフェミニストということではなく、例えば男性の場合、“5”で済むところを、女性の場合は“50”できる能力をみせないとやっていけない、そういった目に見えない部分はあると思いますが、男性でも映画を撮るときには様々な問題を抱えていると思うので、やはり映画を撮るということは男女に関わらず難しいことだと思います。

ナタリー:編集作業はアナログだった昔と比べてみると今はそれほど難しいものではなくなってきたと思うので、女性がこの分野で働ける可能性もどんどん高まってきています。イメージ

ただ作業の内容はもちろん複雑ではあるし、それ以前に予算的な問題もありますが、それは映画に限った話ではないし逆に予算が無いことで自身の頑張りを要求されるので、いい意味でも腕の見せどころで自由に表現する可能性を与えてくれます。

アジアや中南米からも女性監督の映画が随分発表されてきていますが、ヨーロッパでいうと特にイタリアは女性の監督や映画関係者はまだまだ少ないのが現状です。ただ自分たちやこれからの世代の人は昔に比べると可能性がそんどん広がっていると思います。

今は映画業界に限らず女性が活躍している場は本当に多くなったと思います。男性と比べたら体力などの限界があるかもしれませんが、そのことが逆に役に立っている場合もあるのではないでしょうか。


エリザ・フクサス監督作品『ニーナ』
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脚本:エリザ・フクサス、ヴァリア・サンテッラ
製作:シルヴィア・パトリツィア・イノセンツィ、ジョヴァンニ・サウリーニ
撮影監督:ミケーレ・ダッタナスィオキャスト:ディアーヌ・フレーリ、ルカ・マリネッリ
アンドレア・ボスカ、エルネスト・マイエ、ルイジ・カターニ
©2012 Magda Film, Paco Cinematografica

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エリザ・フクサス

1981年ローマ生まれ。
大学で建築を学び2005年に卒業。07年に短編"Please Leave a Message"を監督し、Italian National Syndicate of Film Journalistsでシルバー・リボン賞を受賞。


それ以後、短編、ミュージック・ビデオ、ドキュメンタリーの脚本、監督を手掛けている。

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