2013年秋、待望の高畑勲監督が手がけた「かぐや姫の物語」が公開された。
この日本アニメ史上最高峰の技術と志が集結した作品は、多くの若きアニメーターたちにも大きな影響を与えた。田中萌もそのひとりだ。
「『かぐや姫の物語』で一番学んだことは”こだわり”です。表現したいことを突き詰めていく妥協のない姿勢です。劇場作品だからできた、ジブリだからできた、そして高畑勲監督だからこそできた、そんな奇跡のような作品に参加させていただき本当に光栄でした」

 

■ 感動がこみ上げてきました

高畑勲監督のジブリ作品「かぐや姫の物語」に動画として参加しています。日本工学院専門学校を卒業後、STUDIO 4℃で約4年半動画としてやっていたのですが、当時とてもお世話になっていた動画検査の方に「あなたに合ってるかもしれないよ」と紹介されたのが「かぐや姫の物語」でした。それまでSTUDIO 4℃の世界にどっぷり浸かっていて、もっといろいろな作品を経験してみたいと思っていた時期だったのと、ジブリさんにお声がけいただいたことで、思い切ってフリーになることを決めました。そして2012年の9月から「かぐや姫の物語」の作業のため、第7スタジオに入ることになりました。
あれだけのこだわりをもってつくられた作品にはなかなか出会えないと思うほど、「かぐや姫の物語」は本当に特別な現場でした。独特の線質と水彩画風のタッチを表現するために、1コマに何枚もセルを重ね、手間と時間をかけ丁寧に作業が進められていきました。スタジオにはフリーで活躍している有名なアニメーターの方たちが集まり、そこに高畑監督もいて……、求められる水準が高く大変でしたが、刺激的で新鮮で、とてもやりごたえのある現場でした。
原画でつくった動きの間に絵を入れてなめらかに動かすのが動画の仕事なのですが、これほど楽しく動画を描いたのは久しぶりだったかもしれません。あまりに動きが素晴らしいので、もう原画を見ているだけで幸せでした(笑)。
初号のときに初めて完成した「かぐや姫の物語」を見たのですが、最後のテロップが流れてきたあたりで感動がこみ上げてきて。いままで大事に思いを込めて描いてきた1枚1枚がつながり、たくさんの人の手をへてこんなステキなひとつの作品になったのか!と。動画で担当したどのカットも印象深いですが、ひとつあげるなら桜の木の下で姫が回っている場面でしょうか。1カットでしたが、姫と一緒に動く髪や着物にもそのときの姫の心情が感じられるようでとても好きな場面のひとつです。素晴らしい作品を素晴らしい人たちと一緒に作り上げる機会を与えていただけて、本当に幸せでした。

イメージ
スタジオジブリ最新作「かぐや姫の物語」より ©2013 畑事務所・GNDHDDTK

 

■ あこがれの人と作りたい

小さい頃からアニメが大好きなテレビっ子でした。それと同じくらい絵を描くことと本を読むことが大好きで、挿絵の少ない童話やファンタジーものを読んでは、自分でキャラクターを創作する遊びにはまっていました。そんな小学生の頃の夢は、イラストレーターになることでした。
高校卒業後は普通に大学に進学しようと思っていました。星好きが高じ、空に興味を持つようになり気象関係の学部に進もうと考えていたのですが、だんだん迷走しはじめ、高校2年生のときに改めて自分が本当にやりたいことってなんだろうと見つめ直してみたんです。そうしたらイラストレーターという小学生の頃の夢が頭に引っかかって。その頃もアニメが好きでずっと観ていましたし、そこで初めてイラストだけではなくアニメーションを仕事にすることも意識するようになりました。
卒業後は、日本工学院専門学校マンガ・アニメーション科(現クリエイターズカレッジ マンガ・アニメーション科)に入りました。1年生でアニメとキャラクターデザインとマンガがひと通り学べ、2年生になってからコース選択ができるという可能性の選択の多さが魅力でした。勉強をしていく中で、自分の表現したいものを自分で描いて実際に動かせる面白さに目覚め、2年生ではアニメーションコースのアニメーター(原画と動画)専攻を選択しました。それまではアニメ作品自体が好きで観ていたのですが、日本工学院に入ってからは、参加しているアニメーターに自然に興味を持つようになりました。友だちのオススメの作品を観ては、これもあのアニメーターさんがやっている!とか、スタッフを追って作品を観たり。その中でも、ちょうど高校卒業後の進路を考えていたときにテレビで放送していた「巌窟王」との衝撃的な出会いによって、監督の前田真宏さんにあこがれたことと、「交響詩篇エウレカセブン」にキャラクターデザインと作画で参加している吉田健一さんがすごく好きで、ふたりと一緒に作りたい!というのが業界に入ろうと思った一番のきっかけでした。

スタジオジブリ最新作「かぐや姫の物語」より ©2013 畑事務所・GNDHDDTK

 

■ ひとつひとつ積み重ねる

日本工学院の2年生のときにアニメーター養成プロジェクトの一環でアニメ制作会社のぴえろにインターンとして入らせてもらいました。実際にプロの現場でやらせていただき手応えも感じていたのですが、その年はインターン生からの採用はなしということになり、卒業目前で一瞬道を見失ってしまいました。そんな折に日本工学院の先生がSTUDIO 4℃を紹介してくださり、提出した課題が認められ5月から研修生になることになりました。その後、3カ月間の研修の末に正式採用が決まり、アニメーターとして一歩を踏み出すことができました。STUDIO 4℃のオムニバスアニメーション「Genius Party Beyond」に前田さんが参加されていたのですが、現場は終わっていてご一緒できず……。それでもあこがれの人に少し近づけた気がしました。STUDIO 4℃は劇場作品やPVなどの短編作品が多く、丁寧につくり込む現場で経験を積ませていただきました。
私はもともと、楽しく動かすことができる「忍たま乱太郎」などの子供向けの作品が好きだったのと、4年目ぐらいからもっといろいろな作品を経験して視野を広げたいと思うようになっていました。そんなときに声をかけていただいたのが「かぐや姫の物語」で、本当に幸運でした。
現在は「かぐや姫の物語」で作画監督をやられていた小西賢一さんに誘っていただき、一緒に新しい作品に、しかも小西さんが直に教えてくださるというとても恵まれた環境で初めて原画として参加させていただいています。
自分のやったことが作品として残っていく、そしてその作品が世に出ていろんな人に観てもらえる、こんなに嬉しいことはありません。アニメーターになるきっかけになった夢を目標に、いま何をしていくべきなのかということを考えながら、ひとつひとつ積み上げていきたいと思っています。できるところまで、できる限り、アニメーターとしてやっていきたいです。

イメージ
かぐや姫の物語 ©2013 畑事務所・GNDHDDTK
巨匠・高畑勲監督14年ぶりの長編アニメーション作品。
全国東宝系にて大ヒット公開中。

 

この記事に関するお問合せは、こちらまで
pec_info@hq.cri.co.jp

こちらもおすすめ