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MBS/TBS系列『情熱大陸』プロデューサー 福岡 元啓さん

スポーツ、演劇、音楽、学術など、あらゆるジャンルの第一線で活躍する人物にスポットを当て、その魅力・素顔に迫るドキュメンタリー番組『情熱大陸』(毎週日曜夜11:00~)。同番組のプロデューサーを務める福岡元啓さんに、番組作りについて、800回を超えた番組の今後について…お話を伺いました。

 

■ 取材を通して“いろいろな人の人生が体験できる”仕事への憧れ

img01進路を考える高校生の頃には、自分が何をやりたいか、明確な“目指すもの”はありませんでした。その時に、法学部卒業だと進路の幅が広がると聞いて、法学部に入りました。弁護士になりたくて…などの熱い気持ちではないんですよ(笑)

就職活動で放送局を受けた理由には、昔からラジオが好きで、メディアに携わりたい、という気持ちもありました。その一方で、例えば「弁護士になりたい!」というような熱い気持ちを持っていなかったからこそ、いろいろな職業が垣間見える仕事がいいな、と思ったからです。人に話を聞くことができたり、様々な現場に行けたり…取材を通して、“いろいろな人の人生が体験できる”ことに魅力を感じたのも、大きな理由です。

 

■ 入社後にラジオ・報道を通して学んだ番組制作&取材の「いろは」

img02毎日放送(MBS)に入社してからは、ラジオ、報道に携わりました。
ラジオでは番組制作の「いろは」を学びました。進行台本を書き、ネタの選定も行い…構成作家の方がいる番組も多々ありますが、チェックには参加できますし、音楽も自分で選びます。
そして、出演者とのやり取りから、心理的な側面も学びましたね。自分が収録スタートの合図を出して、ブースの中で出演者が喋っている時に「うん、うん」って頷きながら話を聞くこと。話が面白かったら、ガラスで隔てられたブースにいる出演者にも、笑っていることが分かるように手を叩いて笑うこと…これだけで、喋っている出演者は気持ちがのって、さらにパフォーマンスが上がるんですよね。

そのような心理面も含めて学んだ、制作の「いろは」が集約されて、テレビ番組の制作に繋がっていると思います。

一方の報道は、例えば「て」「に」「を」「は」がちょっと違うだけでニュース原稿のニュアンスが全部変わってくる世界です。「可能性“も”あります」と「可能性“が”あります」で全然意味が違うので、その一言に徹底的にこだわる世界です。その中で、「この情報は出していいのか、いけないのか」も含めて緊張感のある環境で、学んでいきました。

あと、報道で身についたのは、取材の段取りの「いろは」です。どうアプローチしていくのか、という「いろは」を学びました。報道には、急にご家庭のインターフォンを押して、話を聞かなければいけない取材もあるので、そこで大事なのは“人との距離感”ですよね。

『情熱大陸』の取材現場でも“人との距離感”は大事です。それは、その人によって違うのでマニュアル化はできません。
でも例えば報道の現場でいえば、夜にインターフォンを押して「すみません、ちょっと事件のことでお伺いしたいことがあるのですが…」などといった取材をしなければいけない時、先方との距離感は、出てきた人の雰囲気にもよりますよね。
その人の貴重な時間をお邪魔してしまうわけですから、「ちょっともう…うるさいんですけど…」という反応だったら、距離のとり方も慎重にしなくてはいけません。
そのような、それぞれの人との距離感や、大物政治家と対峙する時の距離感も…今ここでこの質問をするべきか否かというような、そういう距離感も報道では学べました。

ラジオと報道で身についたもの…その両方がミックスできたのは、自分にとってすごく良かったと思います。もともと『情熱大陸』は報道出身のプロデューサーが作った番組ですが、タレントから一般の方まで、いろいろな方を扱うので、そういう振り幅はラジオと報道をやってきて良かった、と思うところです。

 

■ “確固たるもの”を持つ魅力的な人を、どのように映像化するか

img03『情熱大陸』で取り上げる人選について、聞かれることもあるのですが、多くの人が思う「今、見たい人」というのは、やはり意識します。去年でいう片岡愛之助さん(2013年10月6日放送)、最近で言うと、三代目J Soul Brothers(2014年6月22日放送)などですね。

そういう方ではない場合、やはり“どういうものが撮れるか”という視点で考えます。テレビカメラで取材した時に、その方の魅力をきちんと可視化できる部分があるか…例えば、カカオハンターの小方真弓さん(2014年2月9日放送)の場合、ただ、コロンビアからの輸入を一手に引き受けている、という部分だけでは難しいけれど、“新しいカカオを探しに行きたい”という部分など、少しワクワクできますよね。
そのような要素が揃って、映像化のイメージが描けて「これなら、おもしろい」と確信が持てることが大切かもしれません。
それに加えて、人と違う価値観の中で生きている人を選びたいと思っています。例えば小方さんにしても、コロンビアに一人でも行くようなバイタリティは、周囲の目を気にした生き方をしていたら、持てていないと思いますし、そこに内面の魅力を感じますね。

あと、例えばカヌーでインドネシアなどを訪れた冒険家の八幡暁さん(2012年2月26日放送)も、別に大金持ちになりたいわけではなくて、自分の限界を試したい、という気持ちが強くて。カヌーでいろいろなところを一人で横断して、遭難したこともあるみたいで…そういう他人の価値観じゃないところで生きられる人に対しては「羨ましい」と思ってしまいます。

映像素材をチェックする時に「いいなぁ、この人は」と口に出しては、スタッフに「またですか」と言われています(笑)「僕もこんな生き方が良かったなぁ」「またですか」と…その繰り返しです(笑)
それは、確固たるものがあって羨ましい、という気持ちです。確固たるものを持っている人は魅力的だし、自分としても憧れ続ける存在です。

 

■ 取材対象への“距離の取り方”には“生きてきた背中”が反映される

img04『情熱大陸』の取材について、例えば関取の遠藤さん(2014年6月29日放送)などは、撮りたいディレクターがたくさんいて。各制作会社から提案を受けている状況でした。

取材対象に直接対峙するのはディレクターの仕事です。プロデューサーの立場としては、誰に取材に行ってもらうか、という地ならしが大切です。どのディレクターが撮れば、距離感がマッチするかを推測する必要があります。

そこで、出身が同じ石川県で、若くて、相撲大好きというディレクターを選出しました。
そのディレクターがどう撮ったかは、そのディレクターなりの“距離の取り方”です。いつも一緒にいるのを心地よく思ってくれる取材対象もいれば、そうは思わない取材対象もいるだろうし。「この人だったら一緒にいてもいいよ」と心を開いてくれる取材対象も出てくるし、逆に合わなかったら「この人と一緒だと喋りたくない…」ということにもなりかねないですよね。

それは、例えば遠藤さんを担当したディレクターがどの取材対象にも100点以上の映像が撮れるかというと、そういうわけではないと思うんですよ。その上で、プロデューサーとしては100点に近づける人をマッチングすることが求められるし、現場のディレクターとしては、例えば街頭でインタビューを撮る時に「この人だったら喋ってくれそうだなぁ」とか、そういう当意即妙というか、空気を読みすぎず読む力は必要だと思います。

取材を例に挙げると、毎回カメラを持って行くことがいいと思われがちですが、10日くらいカメラなしで、例えば普通にお茶だけ飲む毎日が続いたところで「ちょっといいですかね?」というアプローチの仕方もあると思います。それはディレクターが距離感を探らないといけないだろうし、その探り方は、取材対象によって違うので、そのあたりの状況を客観的に見ることが大事だと思います。

その距離感には、ディレクターの“生きてきた背中”が反映されるので、VTRには“ディレクター臭”が漂うのだと思います。同じ泣くシーンでも撮り方が違って、そこに“生き方”が反映されていることを実感します。

今は、昔に比べてドキュメンタリー番組の制作数も減っているので、携わりたいという方は、意識的に自分からも動いた方がいいと思います。
昔は制作の土壌もあって、ある種の優雅な雰囲気もありましたが、今の映像クリエイターの方は、細かい仕事も増えて大変ですよね。その状況だと、人と向き合うドキュメンタリー番組を作る余裕がなくなる場合もあるので、少し無理してでも、いろいろなことが体験できるように自ら動く姿勢が大切だと思います。

映像制作にあたって、感覚やセンス、技術はそれほど大きな問題ではないと思います。『情熱大陸』でいう“上手なカメラマン”は、ピントを合わせるのが上手な人ではなくて、やっぱり“距離感の取り方”が上手な人ということです。なので、人と向き合うような番組作りを目指すなら、自分の生き方そのものを磨く方が近い気がします。取材対象者が「こんな奴が撮りに来たんだ!」って面白がってくれる方が良いし、技術的な部分に長けた人というよりも、もっと、泥臭い領域が求められていると思います。

 

■ 放送800回記念特別企画“88年生まれの8人”を振り返って

img05先日、『情熱大陸』は放送800回を迎え、記念企画“88年生まれの8人”を2014年5月4日、11日の2週にわたり放送しました。
普段の『情熱大陸』での密着ものとは違う、インタビューという手法に挑戦したので、現場にとっても難しい演出へのチャレンジとなりました。普段とは違う表現方法を形に残せたことも良かったですし、映画風の作りにしたことで、映像美に関するリアクションも良かったですね。さらに、出演者の言葉にもそれぞれ迫力があったので、書籍化に対する反応も良く、新しい表現方法の一つとして手応えのあるものでした。

今後は、テレビとインターネットやSNSの連携を意識したいと思っています。その視点で考えると、アプリの使い方も鉱脈があると思います。“誰でも情熱大陸”(自分や友人のプロフィールを入力し写真を撮影すると番組のオープニング画像と音楽に自動的にコラージュされるもの)などの遊び心ある機能も取り入れたアプリを作ったことで、かなりの反響も得られているので、その今後の展開などは、老舗番組でありながらも、新たに攻めていくべきところと思っています。直近で言うと、ガンホー・オンライン・エンターテイメントのクリエイター、森下一喜さんと一緒にゲームも作っていて、それも良い形で発表できれば、番組の900回、1000回に向けて、また幅を広げていけそうな予感がしています。

 

■関連書籍情報
●『情熱大陸』800回記念 ぼくらは、1988年生まれ
著者:MBS『情熱大陸』
出版社:双葉社
定価:本体1000円+税
単行本(ソフトカバー):オールカラー112ページ
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●情熱の伝え方

img06

著者:福岡元啓
出版社:双葉社
定価:本体1300円+税
単行本(ソフトカバー):232ページ
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■MBS/TBS系全国ネット『情熱大陸』(毎週日曜夜11:00~)公式サイト
http://www.mbs.jp/jounetsu/
■公式Twitter
https://twitter.com/jounetsu
■公式Facebook
https://www.facebook.com/jounetsutairiku

(2014年7月16日更新)

 

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福岡 元啓(ふくおか・もとひろ)

1974年東京都出身。早稲田大学卒業後1998年毎日放送入社、ラジオ局ディレクターとして『MBSヤングタウン』を制作後、報道局へ配属。神戸支局・大阪府警サブキャプ等を担当。街頭募金の詐欺集団を追った「謎の募金集団を追う」や、日本百貨店協会が物産展の基準作りをするきっかけとなった「北海道物産展の偽業者を暴く」特集がギャラクシー賞に選出され『報道特集』など製作ののち、2006年東京支社へ転勤。『ランキンの楽園』『久米宏のテレビってヤツは!?』『ビートたけしのガチバトル』を手がける。2010年秋より『情熱大陸』5代目プロデューサーに就任し、東日本大震災直後のラジオパーソナリティを追った『小島慶子篇(2011年4月放送)』、番組初の生放送に挑戦した『石巻日日新聞篇(2011年9月放送)』でギャラクシー月間賞。水中表現家の『二木あい篇(2012年10月放送)』でドイツ・ワールドメディアフェスティバル金賞受賞。デジタルクリエイター『猪子寿之篇(2012年7月放送)』がニューヨーク・フェスティバル2014でドキュメンタリー文化番組部門を入賞。

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