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映画『柘榴坂の仇討』監督 若松 節朗さん

入社以来、演出・ドラマディレクターとして『やまとなでしこ』(00/CX)、『救命病棟24時』(05/CX)など数々の人気ドラマを手掛けた若松節朗さん。『ホワイトアウト』(00)、『沈まぬ太陽』(09)など、映画監督としても注目を集める若松さんの最新作は『柘榴坂の仇討』(出演:中井貴一、阿部寛ほか)。自身初の時代劇となる本作の公開を前に、お話を伺いました。

 

■ ドラマ『虹の設計』を見て「こういうドラマを作りたい!」と決意

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高校1年生の頃に、佐田啓二さん出演のNHKドラマ『虹の設計』を見たことが、この仕事をしたいと思ったきっかけでした。
『虹の設計』は、天草諸島に橋を架ける建設屋の話でした。そのドラマに感銘を受けて、橋そのものを作る建設屋の方ではなくて、こういう作品をテレビで作る人になりたいと強く思いました。“こういうドラマを作りたい”と思った、自分にとって大切な作品です。

高校までは、テレビが唯一の身近な文化だったので、いわゆるテレビっ子でした。『週刊明星』などもよく読んでいて、テレビや俳優さんたちの世界への憧れを、とても強く持っていましたね。

その後に日本大学藝術学部に進んでからは、ひたすら学園紛争と…紛争の合間にNHKなどでアルバイトを始めました。その頃は『週刊明星』などで見ていた華やかな役者さんたちに会いたいという気持ちが一番でした。アルバイトに行くと、目の前にそういう役者さんたちがいるので、ドキドキ緊張しっぱなしのアルバイトでしたね。でも、そこにいる自分が心地よくて、希望の業界に近づけているという実感も持てる現場でした。

 

■ キャリア初となる時代劇への挑戦

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その後、共同テレビに入社して、演出・ドラマディレクターを務め、映画も制作することになりますが、今回の時代劇は、初めて挑戦するジャンルです。

もともと、浅田次郎さんの作品は大好きで結構読んでいたのですが、果たして自分に時代劇が撮れるのか?という想いはありました。この『柘榴坂の仇討』も、主人公の生き方が素晴らしく描かれていて、その生き様に憧れを抱きました。

まず素敵だと思ったのは“主君を慕う心”です。そこには、お金も名誉も関係せず、「その殿様が好きだ」という気持ちだけで自分の命を懸ける…現代ではあり得ない生き様ですよね。時代が変わっても、その武士の姿を貫き通すというのは、今の人たちに見てもらった時に理解されるかどうかは分からないですが、素晴らしいものだと思います。

映像化にあたって、プロデューサーからは「世直しの映画をやってみませんか?」と言われました。最初は世直しの意味が分からなかったのですが、シナリオを作っていく過程で、そして自分が現場に立った時に、時代劇と言いながらも、時代劇を通り越した、今の世の中に通じるテーマがたくさん入っていると思い始めて…そのことで、この作品を今、映画化する意味を大きく感じましたね。

 

■ セリフを大切に“情感”を引き出す演出

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© 2014映画「柘榴坂の仇討」製作委員会

プロデューサーと脚本家と3人でシナリオを作りながら、この物語から一番感じ取ったのは、“武士の誇り”です。武士が誇りを保つためには、犠牲にするものがあります。それは、中井貴一さんの役柄であれば、広末涼子さん演じる奥さん。阿部寛さんの役柄では、真飛聖さんが演じている女性が支えになっています。

その優しさを、現代の女性たちにも見てもらいたいと思います。広末さんの役柄で言うと、主人である中井さんの仇討が成功したら、彼は切腹して、自分は後追いをするという武士の姿があって、覚悟の中での別れのシーンがありますから、その情感がせつなく、悲しいですよね。

そのような情感面を引き出すために、今回は、役者さんの芝居をストレートに伝えることを意識して演出しました。まずは、セリフをしっかりと聞かせる映画にしたいと思い、それを意識したカッティングを行いました。

演出面で特に注意したのは雪の降らせ方です。先ずは桜田門外の激しい戦いの雪。主君の尊い命が奪われる時の壮絶なシーン。そして仇討当日、今生の別離をする夫婦の切なさを表す雪。
どちらも俳優の芝居を後押しする効果的な降り方でした。
久石譲さんがこの雪に魂のこもった音楽をつけてくれました。

■ 阿部寛さんと中井貴一さんの緊張感は、現場にも影響?!

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© 2014映画「柘榴坂の仇討」製作委員会

この『柘榴坂の仇討』では俳優達が感情を抑えた演技に徹しています。劇中13年ぶりに再会した中井貴一さんと阿部寛さんの緊張感漂う雰囲気は見逃せません。やっと主君の仇が捕れる。かたや彦根藩士がついにやって来た!息詰まる二人の武士の佇まいには誰も近寄り難く現場での二人も会話すらありませんでした。

当然現場を預かる監督にもスタッフにも集中力が要求されますね。ハラハラ、ドキドキのサスペンス感が漲った良いシーンになりました。

その他にもこだわったシーンと言うと、広末さんが、切腹をしたいのにできない中井さんから「お前は彦根に帰れ」と離縁を促される場面です。その時の広末さんの凛とした表情と、「春になったら彦根に帰ってみるか」と言う中井さんの言葉に、帰ることはできないと分かっていながら「はい、嬉しゅうございます」と応える、その言い方ですね。そこでは涙はこぼさずに、あの後カットがかかった瞬間に、広末さんは、ばーっと涙を流しているんです。そのギリギリまで我慢させる芝居も、みどころの一つです

そのように、俳優さんたちが皆、自分のポジションを分かって、しっかり演じているので、監督の立場としてはあまり苦労はなかったかもしれません。

 

■ 人一倍の「好き」というエネルギーがないと務まらない仕事

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この映像業界の仕事には免許証は要りません。プロデューサーも監督も免許証はないですからね。宣伝プロデューサーも免許証はないです。だから誰でもできるんです。でも、それには人一倍の「好き」というエネルギーがないと、この仕事は務まらないと思います。

基本的にはものづくりが好きとか、映画が好きとかテレビが好きとか、そういう気持ちが大切です。秋元康さんが、成功する人の98%は運だと言うんですよ。残り1%の汗と1%の才能だって。運の中に、好きだという気持ちがないと、すぐに辞めてしまうと思います。好きだから辛い時期も我慢できますし…例えば中井貴一さんが好き、という気持ちだけでも良いんですよ。いずれ、中井さんと仕事がしたい、だけでも良くて。それをエネルギーに変えていくことがとても大事です。

僕自身も、最初のミーハーな気持ちから始まって、今の仕事へと繋がっていきましたから。好きという気持ちと、辛い時期があっても我慢していれば、チーフ助監督から監督になって、そしたら好きな作品を撮ることができる、と信じる気持ちですね。
ものづくりに必要なのは、好きという気持ちと、ナンバーワンじゃなくてもいいから、オンリーワンの、「これだけは自分の世界」というもの。それを持って、制作に向かい合って欲しいです。


■作品情報

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© 2014映画「柘榴坂の仇討」製作委員会


『柘榴坂の仇討』
9月20日(土) 全国ロードショー
 

出演:中井貴一 阿部寛 広末涼子 高嶋政宏 真飛聖 吉田栄作 堂珍嘉邦 近江陽一郎 木崎ゆりあ 藤竜也 / 中村吉右衛門

原作:浅田次郎(「五郎治殿御始末」所収 中央公論新社刊/新潮文庫刊)
監督:若松節朗
音楽:久石譲
配給:松竹

■オフィシャルサイト
http://zakurozaka.com/

(2014年9月16日更新)

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若松 節朗(わかまつ・せつろう)

1949年、秋田県出身。日本大学藝術学部卒業後、1986年に入社。演出・ドラマディレクターとして『振り返れば奴がいる』(93/CX)、『やまとなでしこ』(00/CX)、『救命病棟24時』(05/CX)など数々の人気ドラマを手掛ける。映画監督作に『ホワイトアウト』(00)、『沈まぬ太陽』(09)、『夜明けの街で』(11)など。小滝祥平プロデューサーとは『ホワイトアウト』以来13年ぶりにタッグを組む。

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