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荒井晴彦監督、阪本順治監督、井筒和幸監督らの現場に助監督として参加した後、『ゲルマニウムの夜』で長編監督デビューした大森立嗣さん。『さよなら渓谷』ではモスクワ国際映画祭のコンペ部門に出品され、日本映画では48年ぶりに審査員特別賞を受賞する快挙を成し遂げました。その最新作『まほろ駅前狂騒曲』(出演:瑛太、松田龍平ほか)の公開を前に、お話を伺いました。

 

■ 技術はプロフェッショナル、心はアマチュア

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映像制作を志すきっかけは、大学時代でした。

高校生までは、むしろ”表現すること”が好きではなくて、文化祭の映画作りなどにも、あまり参加しないタイプでしたね。

大学で映画サークルに入ったのも、新歓でいろいろ声をかけてもらう中で、テニスサークルとかには苦手意識があって、話していて一番しっくりきたのが映画サークルだったからです。映画にはそんなに詳しくなかったけれど、楽しそうな映画サークルの人たちに興味を持ったという…それだけのきっかけでした(笑)

でも、それから多様な映画を観て、自由な価値観に触れ始めたあたりから、すごく面白くなっていきましたね。制作をする時にも、皆で順番に俳優をやったり監督をやったりで、楽しかったですよ。その頃と今で、制作の規模は変わりましたが、やっていることは同じだと思っています。

その後の荒井晴彦監督、阪本順治監督、井筒和幸監督の助監督時代から、今に至るまで、あまり”仕事”という意識はないんですよ。助監督時代だったら、その監督に会えるとか、俳優さんがいる現場に行けるとか、そういうことが純粋に楽しかったですね。

基本的には、ものを作る楽しさは学生の時と変わらない延長線上で…昔、先輩が言っていた「技術はプロフェッショナル、心はアマチュア」という言葉は今でも印象に残っていますし、そういう気持ちはずっと持ち続けています。

 

■ “テンポ”を意識した演出

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学生時代の延長線上のような、ものを作る楽しさ…という感覚は『まほろ』シリーズにも当てはまります。瑛太、松田龍平とは、友達と一緒に映画を作っているような感覚がありますね。

2人とも『まほろ』を作る前、僕が助監督の頃から友達で、瑛太はデビューの頃から知っているので、普段話している時は友達感覚です(笑)でも、瑛太も龍平も、やはり日本を代表する俳優として背負うものがあるので、それに応えないといけないプレッシャーもあって、今回の『まほろ駅前狂騒曲』では、より多くの人に見てもらうために、「ポップにしなくちゃ」って(笑)そう考えましたね。

『まほろ』は三浦しをんさんの原作もベストセラーなので「映画でもヒット作を作らなきゃ」という想いはあります。でも、ただのヒット作ではなくて、自分だからこそ作れる内容がないと、監督はできないなぁという気持ちがあったので、そこの葛藤はありました。

とは言っても、演出面はそれほど変わらないんですよね。僕はあまり俳優に言葉で伝えることはないです。質問されたら答えますが、あまり頭でっかちな理屈っぽいことを演技する前に言っても、たぶん伝わらないと思うので。

そんな中で今回、現場で意識したのはテンポです。特に物語があまり展開していない前半はテンポを上げて、後半で緊張感のあるバスジャックのシーンに繋げていくような意識はしましたね。

あのバスの中のシーンは、特に撮りたかったところです。あの狭いバスの中に多くのキャストが集う、ある種のカオスというか…アナーキーな世界を作りたいと思っていました。映画のストーリーとは別の、どこに向かうか分からない感じをやりたかった、というのはありますね。

 

■ 変わらない『まほろ』の空気の心地よさ

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© 2014「まほろ駅前狂騒曲」製作委員会

『まほろ』は内容的には、ほのぼのとしたシーンがあったり、面白いシーンがあったりしますが、現場の規模が大きいので、時には苦労もありますね。大雪に見舞われたり、1作目の『まほろ駅前多田便利軒』の撮影では猛暑の中だったりと…そういう状況的なものもありますが、いろいろな俳優さんが揃う現場での撮影は、やはり大変な部分もあります。

でも、スタッフは助監督も制作部も撮影も同じで、俳優陣も含めて、ほぼ「チームまほろ」の空気ができていますし、連続ものの楽しさも随所に感じられると思います。

今回、後半のバスジャック事件を始め、いろいろなことが起こりながらも、基本は瑛太と龍平、2人のお芝居の掛け合い…妙な間でゆったりとしたあの2人の心地よい関係、空気感が変わらないみどころだと思います。

 

■ “出会いの場”を作るワークショップへの想い

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僕が助監督をやっていた当時、阪本監督や井筒監督の現場は、1億前後の予算規模があるものでしたが、今では、そのような商業性と作品性を両方保てる映画がなくなってきているように感じます。今は、商業的に大規模な映画がいっぱいあって、それとは対極の自主映画があって…その中間がなくなっていますよね。僕が育ってきたのは、まさにその中間で、そういう現場は若い俳優が監督たちと出会う場でもあったし、そこで助監督として修行を積んで監督になる、ということを僕はさせてもらいました。

そういう場所がなくなってしまったので、ワークショップを開催することで、出会いの場や、若い俳優が演技指導を通して成長できる機会になって欲しいという想いもあります。

『まほろ駅前狂騒曲』でも、永瀬正敏さん演じる小林が率いる教団に所属する教団員たちの役で、ワークショップの子がたくさん出演しています。彼らはあまり現場を知らないので、現場の雰囲気を感じられるのは良いことだろうし、僕としてもエキストラみたいな人より、ある程度お芝居をできる人が来てくれると、とても助かります。両方にとって、すごく良い場になっているのではないかと思いますね。

 

■ 自分たちが心を動かしたことしか、人の心は動かせない

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今、次回作に向けていろいろ企画をしている段階です。まだ決まってはいないのですが…今までは『まほろ』のように、割と等身大で、社会の隅っこで生きているような(笑)人たちを描いていることが多かったのですが、今度は女性を描いてみたいとか、時代物をやってみたいとか、自分とかけ離れた人を描いてみたい、チャレンジしたいという想いもあります。あまりイメージを限定せずに、振り幅を持っていたいので、新しいことにチャレンジしたい、1つずつ違う作品にしたいという想いがありますね。

どのような作品に挑むにしても、”自分たちが心を動かしたことしか、人の心は動かせない”というのは思っています。技術的なこともありますが、”俳優さんが心を動かして、動いた心が初めて人に伝わる”ということは、台本を書くときや撮影に入る時にも伝えるようにして、大切にしていることです。


■ 作品情報

『まほろ駅前狂騒曲』

10月18日(土) 新宿ピカデリー他 全国ロードショー

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© 2014「まほろ駅前狂騒曲」製作委員会

 

主演:瑛太 松田龍平
共演:高良健吾 真木よう子/本上まなみ 奈良岡朋子 新井浩文 三浦誠己 古川雄輝/横山幸汰(子役)岩崎未来(子役)/水澤紳吾 大西信満 原田麻由 宇野祥平 市川実和子 伊佐山ひろ子/麿赤兒 松尾スズキ 大森南朋 岸部一徳/永瀬正敏
監督:大森立嗣 『さよなら渓谷』『まほろ駅前多田便利軒』
脚本:大森立嗣、黒住光『まほろ駅前番外地』
音楽:岸田繁(くるり)
原作:三浦しをん『まほろ駅前狂騒曲』(文藝春秋 刊)
配給:東京テアトル/リトルモア

■ オフィシャルサイト

http://www.mahoro-movie.jp/index.html

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大森 立嗣(おおもり・たつし)

1970年、東京都出身。大学時代に入った映画サークルがきっかけで自主映画を作り始め、卒業後は俳優として活動しながら荒井晴彦、阪本順治、井筒和幸らの現場に助監督として参加。
プロデューサー兼出演をつとめた『波』(02監督・奥原浩志)が第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞"NETPAC AWARD"を受賞する。
『赤目四十八瀧心中未遂』(03)に携わった後、同作の監督であった荒戸源次郎のプロデュースによって2005年『ゲルマニウムの夜』で長編監督デビュー。その衝撃的な作風で映画界を揺るがす。
2010年には二作目となる『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で第51回2010年度日本映画監督協会新人賞ほか、多数の賞を受賞。その後『まほろ駅前多田便利軒』のメガホンを取る。
2012年、映画監督の山本政志が主催するワークショップ「シネマ☆インパクト」で講師をつとめ、受講者の出演による『2.11』を発表。2008年の秋葉原通り魔事件を題材に自主制作体制で『ぼっちゃん』(13)を撮った後、吉田修一の原作を主演俳優の大西信満とともに映画化へと持ち込み『さよなら渓谷』を完成させる。同作はモスクワ国際映画祭のコンペ部門に出品され、48年ぶりに審査員特別賞を受賞する快挙を成し遂げた。
そのほかWOWOWの連続ドラマでは坂井真紀を主演にむかえ、角田光代原作の『かなたの子』(13)を監督している。
俳優としても『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』(09 監督・根岸吉太郎)『海炭市叙景』(10監督・熊切和嘉)『かぞくのくに』(12監督・ヤン・ヨンヒ)といった出演作がある。
なお、舞踏家の麿赤兒は父、俳優の大森南朋は弟に当たる。


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